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〈J-CLEAR主催座談会〉ピロリ感染と胃癌─新たな知見[J-CLEAR通信(100)]

No.4954 (2019年04月06日発行) P.36

司会: 上村直実 (国立国際医療研究センター国府台病院名誉院長/J-CLEAR評議員)

牛島俊和 (国立がん研究センター研究所エピゲノム解析分野長)

藤崎順子 (がん研究会有明病院消化器内科部長・内視鏡診療部長)

コーディネーター: 桑島 巌 (東京都健康長寿医療センター顧問/J-CLEAR理事長)

登録日: 2019-04-05

最終更新日: 2019-04-03

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ピロリ菌感染者数の減少に伴う胃癌の疫学的推移

【上村】胃癌の原因がピロリ菌感染であることについては,ほぼコンセンサスが得られていますが,近年ピロリ菌の感染率が著明に低下しています。
30~40年前まで20歳代のピロリ菌感染率は50%以上でしたが,現在では5%ほどです。感染率の低下に伴い,胃癌による死亡者数も激減しています。1970年代から30~40年間における年間死亡者数は5万人ほどでしたが,2000年に消化性潰瘍に対する除菌治療がわが国で保険適用になった頃から死亡者数はどんどん減り,最近では4万5000人を切っています。
ピロリ菌感染率と胃癌の関係について,臨床の現場では何か変化を感じますか。

【藤崎】個人的にはRAC(regular arrangement of collecting venules)陽性でピロリ未感染の食道胃接合部癌が増えている印象を持っていたのですが,噴門部を含む進行癌におけるRAC陽性の割合を調べたところ,増加傾向にはあるものの,大幅増加ではありませんでした。
ただ,食道胃接合部癌を噴門部癌とBarrett食道腺癌にわけると,Barrett食道腺癌のほうが圧倒的に多くなっています。

【上村】 50歳未満の感染率が下がり,ピロリ陽性の胃癌が相対的に少なくなっていると言われていますが,若年者胃癌についてはいかがですか。

【藤崎】おっしゃる通り,2012年頃から若年者胃に占めるピロリ陽性率は若干低下しています。ピロリ感染率の低下に伴い,国立がん研究センターの統計によると若年者胃癌の死亡率は激減しています。

【上村】国立がん研究センターはいかがですか。

【牛島】 2011年に内視鏡部の山田真善先生らが「胃と腸」に発表した論文でもほぼ同じでした。食道癌全体の中でBarrett食道腺癌の割合が90年代から2000年代にかけて増えています。一方、胃癌の中での食道胃接合部癌の割合はあまり変わっていませんでした。実は増えていても、内視鏡治療を目的としたピロリ感染胃癌症例も増えたことが原因との考察です。他にも、食道胃接合部癌のうちBarrett食道腺癌を伴わない人の胃は、伴う人の胃に比べてピロリ菌感染の所見(炎症細胞浸潤、萎縮など)が強いというのも予想通りでした。

除菌後胃癌の特徴と経過観察のポイント

【上村】現在,ピロリ菌の除菌後に発見される除菌後胃癌が大きな問題になっています。除菌後の経過観察のコツや除菌後胃癌の特徴は何かありますか。

【藤崎】従来言われている通り,除菌後に早期胃癌が見つかっている人というのは,比較的まめに検査等を受けている人だと思うのです。
私が今回強調したいのは,除菌後進行癌の人が意外といるということです。
私たちの施設(がん研究会有明病院)で385例の進行癌のカルテを詳細に検討すると,31例(8%)ほどが除菌後進行癌であることがわかりました(表1)。男女別では除菌後の早期癌は圧倒的に男性が多いのですが,進行胃癌においてそれは当てはまらないことがわかります。年齢分布では60歳代が多いです(図1)。




除菌してから10年以上経って進行癌が発見された人が6人,10年以下が11人,年数不明の人が14人でした。
除菌後の早期癌は,圧倒的に分化型が多いことが報告されていますが,進行癌では圧倒的に未分化型が多いことがわかりました。
ほとんどがType Ⅲ,Type Ⅳの肉眼形態をとっていて,化学療法が行われている症例が多いのが特徴です。
強調したいのは,除菌後の進行胃癌は進行胃癌全体から見ると意外と多いということです。除菌をして安心してしまい,胃内視鏡検査を定期的に受けなくなってしまう人が多いことが非常に問題です。

【上村】除菌というのは,あくまでも抗菌薬でピロリ菌を退治した結果,胃の中の炎症,特に活動性の炎症を消失させることにすぎず,「胃癌のリスクは残存する」ということですね。除菌治療を行う医師も,除菌治療を受ける患者さんも,それを十分によく知っておかなくてはいけません。患者心理からすれば「除菌すれば大丈夫」と言ってほしいのだけれども,なかなかそうはいかないと。

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