【挙児希望があれば精子凍結保存が推奨されている】
精巣腫瘍は,若年男性に発症する頻度の高い悪性腫瘍であるが,その約90%に完治が期待できる。そこで課題となるのが,「妊孕性の温存」である。精巣腫瘍と診断された場合,患側の高位精巣摘除術を施行後,病期により化学療法や放射線療法,後腹膜リンパ節郭清術(RPLND)の追加が検討される。化学療法や放射線療法後には,不可逆的な造精機能障害(無精子症10~15%,乏精子症50%以上)をきたす1)。RPLND後には,射精に関わる神経を損傷するため,射精障害が生じる可能性がある2)。これらの治療を行う際,加療後に著しく性機能が障害されることが予想される。
2015年度版の「精巣腫瘍診療ガイドライン」では,挙児希望があれば,精巣腫瘍と診断された時点での精子凍結保存が推奨されている。精液は,マスターベーションで採取するが,不可能な場合は陰茎バイブレーター刺激や電気刺激を用いる。それでも困難な場合は,精巣精子採取術(TESE)が考慮される2)。
妊孕性温存のため精子凍結保存は積極的に行うべきであるが,実際に凍結精子が使用される頻度は数%程度とわずかである3)。妊孕性温存のため精子凍結保存は積極的に行うべきであり,今後さらなる啓蒙活動と凍結精子利用が期待される。
【文献】
1) Brydøy M, et al:J Natl Cancer Inst. 2005;97 (21):1580-8.
2) 慎 武, 他:癌と化療. 2015;42(3):267-71.
3) 鈴木康太郎, 他:泌紀. 2007;53(8):539-44.
【解説】
花田いずみ 東海大学泌尿器科