(秋田県 F)
【結核性胸膜炎以外に膿胸,関節リウマチ,悪性リンパ腫等の悪性疾患,IgG4関連疾患などで胸水中ADA高値を示す】
画像で胸水を認めた場合,発熱や胸痛などの症状,両側性か片側性か,などから鑑別疾患を想定し,胸水穿刺を行います。胸水の性状(色,臭い,pHなど)を確認し,Lightの基準(①胸水蛋白/血清蛋白>0.5,②胸水LDH/血清LDH>0.6,③胸水LDHが血清LDHの上限値の2/3,のいずれかを満たせば滲出性)を用いて滲出性か漏出性かの判断をし,滲出性である場合には,さらに胸水中の培養検査や糖,アミラーゼ,ADA,腫瘍マーカーなどの値,細胞分画や病理細胞診などから診断を行います1)。
結核性胸膜炎の多くは片側性であり,胸水から結核菌が検出される頻度は10~15%程度であるため,確定診断は困難な症例もあります。結核性胸膜炎は,胸腔に侵入した結核菌またはその特異抗原に感作されたCD4陽性リンパ球が,マクロファージTh1細胞主体の遅延型アレルギーを引き起こすことにより発症し,プリン代謝に関わる酵素であるADAがこのリンパ球の関与で胸水中に増量します。このため,胸水中のADAが40~50 IU/L以上のとき,結核性胸膜炎の可能性が高いと考え,抗結核薬の投与による治療的診断が行われるケースも多く存在します。しかし,結核性胸膜炎以外に膿胸,関節リウマチ,悪性リンパ腫等の悪性疾患,IgG4関連疾患などで胸水中ADA高値を示すことが報告されています2)~5)。
本症例の場合,抗結核薬への反応性が悪く,両側性でTスポットも陰性であることから,結核性胸膜炎ではない可能性は十分にあります。左側胸水はADAが低下し,ブドウ球菌が検出されていることから膿胸であった可能性もあると思います。
さらに診断を進めるとすれば,病理的な検討が必要です。近年,患者の負担が小さく,全身麻酔下片肺換気を必要としない局所麻酔下胸腔鏡の原因不明な胸水症例への有用性が示されています3)。しかし,今回のような超高齢者で,ベッド上生活を送る認知機能低下の症例には,適応は難しいと考えます。一方,胸水穿刺液からセルブロックを作成し,免疫染色による病理的評価を行うことも非常に有用な手段で,胸水ADA高値で悪性リンパ腫やIgG4関連疾患の診断が行えた症例も報告されています4)5)。胸水セルブロックの評価であれば可能と考えますので,一度ご検討下さい。
【文献】
1) Light RW:N Engl J Med. 2002;346(25):1971-7.
2) Lee YC, et al:Chest. 2001;120(2):356-61.
3) 石井 聡, 他:気管支学. 2011;33(2):99−103.
4) 加藤史照, 他:日呼吸会誌. 2011;49(10):786-91.
5) 吹谷美佳, 他:日臨細胞会誌. 2018;57(1):50-5.
【回答者】
小栗鉄也 名古屋市立大学大学院医学研究科 地域医療教育研究センター教授