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結核性胸水か?

No.4975 (2019年08月31日発行) P.50

小栗鉄也 (名古屋市立大学大学院医学研究科 地域医療教育研究センター教授)

登録日: 2019-09-02

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93歳,女性。10年前から認知症があります。今回の入院まではベッド上の生活で,食事は自分で食べていました。施設入所中,呼吸困難があり,2018年7月16日当院入院。
入院時の血液検査所見は表1の通り。入院後の胸部X線(誌上省略)では右胸水著明で気管が左側に偏位していました。
7月18日に右胸腔ドレーンを挿入し,排液を施行。胸水は淡黄色・透明の滲出液で,異型細胞は認められず,一般細菌や結核菌は検出されず,T-スポット®TB陰性。しかし,胸水のアデノシンデアミナーゼ(adenosine deaminase:ADA)が112.7U/Lと高値のため経鼻チューブからイソニアジド(イスコチン®)200mg/日,リファンピシン450mg/日,エタンブトール450mg/日の注入を開始しました。右胸水はやや減少しましたが,9月に入り左胸水が出現し,呼吸困難を訴えたため,9月24日に左胸腔にもドレーンを設置。血液,滲出液,異型細胞なく,結核菌は検出されず,胸水ADAは55.0U/Lでした。その後,胸腔ドレーンは抜去しましたが,10月29日に再び左胸水が著明となり,左胸腔にドレーンを挿入し,排液。胸水ADA 53.4U/L。
11月2日,エタンブトールは中止し,ピラジナミド(ピラマイド®)1.0g/日を開始(イソニアジド,リファンピシンは継続)。左胸水の培養でブドウ球菌が少量検出され,CRP 12.7mg/dL,WBC 1万6200/μLと高値のため,11月21日からアンピシリン・スルバクタム(ユナシンS®)3.0g×2回/日の投与を開始し,30日まで継続。
現在,両側胸水が中等量貯留していますが,小康状態です。
(1)ADA高値から抗結核薬を投与しましたが,あまり効果があった印象を受けません。結核性胸水と考えてよいでしょうか。また,結核性胸水は一般的には片側性だと聞きますが,いかがでしょうか。
(2)左胸水のADAは最初55U/Lと高値でしたが,11月27日には24.3U/Lとなりました。胸水ADAの高値は結核性だけでなく,悪性リンパ腫や膿胸でもみられると聞きます。右胸水は結核性で左胸水は膿胸によるものなどと考えられますか。

(秋田県 F)


【回答】

【結核性胸膜炎以外に膿胸,関節リウマチ,悪性リンパ腫等の悪性疾患,IgG4関連疾患などで胸水中ADA高値を示す】

画像で胸水を認めた場合,発熱や胸痛などの症状,両側性か片側性か,などから鑑別疾患を想定し,胸水穿刺を行います。胸水の性状(色,臭い,pHなど)を確認し,Lightの基準(①胸水蛋白/血清蛋白>0.5,②胸水LDH/血清LDH>0.6,③胸水LDHが血清LDHの上限値の2/3,のいずれかを満たせば滲出性)を用いて滲出性か漏出性かの判断をし,滲出性である場合には,さらに胸水中の培養検査や糖,アミラーゼ,ADA,腫瘍マーカーなどの値,細胞分画や病理細胞診などから診断を行います1)

結核性胸膜炎の多くは片側性であり,胸水から結核菌が検出される頻度は10~15%程度であるため,確定診断は困難な症例もあります。結核性胸膜炎は,胸腔に侵入した結核菌またはその特異抗原に感作されたCD4陽性リンパ球が,マクロファージTh1細胞主体の遅延型アレルギーを引き起こすことにより発症し,プリン代謝に関わる酵素であるADAがこのリンパ球の関与で胸水中に増量します。このため,胸水中のADAが40~50 IU/L以上のとき,結核性胸膜炎の可能性が高いと考え,抗結核薬の投与による治療的診断が行われるケースも多く存在します。しかし,結核性胸膜炎以外に膿胸,関節リウマチ,悪性リンパ腫等の悪性疾患,IgG4関連疾患などで胸水中ADA高値を示すことが報告されています2)~5)

本症例の場合,抗結核薬への反応性が悪く,両側性でTスポットも陰性であることから,結核性胸膜炎ではない可能性は十分にあります。左側胸水はADAが低下し,ブドウ球菌が検出されていることから膿胸であった可能性もあると思います。

さらに診断を進めるとすれば,病理的な検討が必要です。近年,患者の負担が小さく,全身麻酔下片肺換気を必要としない局所麻酔下胸腔鏡の原因不明な胸水症例への有用性が示されています3)。しかし,今回のような超高齢者で,ベッド上生活を送る認知機能低下の症例には,適応は難しいと考えます。一方,胸水穿刺液からセルブロックを作成し,免疫染色による病理的評価を行うことも非常に有用な手段で,胸水ADA高値で悪性リンパ腫やIgG4関連疾患の診断が行えた症例も報告されています4)5)。胸水セルブロックの評価であれば可能と考えますので,一度ご検討下さい。

【文献】

1) Light RW:N Engl J Med. 2002;346(25):1971-7.

2) Lee YC, et al:Chest. 2001;120(2):356-61.

3) 石井 聡, 他:気管支学. 2011;33(2):99−103.

4) 加藤史照, 他:日呼吸会誌. 2011;49(10):786-91.

5) 吹谷美佳, 他:日臨細胞会誌. 2018;57(1):50-5.

【回答者】

小栗鉄也 名古屋市立大学大学院医学研究科 地域医療教育研究センター教授

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