No.4975 (2019年08月31日発行) P.51
住谷瑞穂 (神尾記念病院)
住谷昌彦 (東京大学医学部附属病院緩和ケア診療部部長/麻酔科・痛みセンター准教授)
登録日: 2019-08-31
(千葉県 K)
【CRPSを発症しやすい条件として,女性,複雑骨折,上肢遠位の骨折,外傷後の強い痛みが知られている】
CRPSは契機となる外傷後などに,その外傷に比して不釣り合いな強い痛みやアロディニアのほか,浮腫,発汗異常,萎縮性変化などを伴う疾患です(表1)1)。CRPSの原因と発症機序は明確になっていませんが,単一の原因によって発症するというよりは複数の要因が複雑に関連して発症する多因子疾患であると考えられています。
ワクチン接種によってCRPSを発症したとする症例報告がありますが,ワクチン成分は様々で,CRPSは些細な外傷や採血行為によっても発症することから,ワクチン成分よりも針刺し行為(注射)という痛みを伴うイベントが原因として考えられています。
CRPSを発症しやすい条件として,女性,複雑骨折,上肢遠位の骨折,外傷後の強い痛みが知られています2)。CRPSを発症しやすい心理傾向や性格はない3)とされますが,患肢の過度な不動化のように外傷後早期から運動機能の低下が観察される患者はCRPSを発症しやすいとした報告2)があります。また,患肢運動により痛みを惹起することに対して恐怖心を持っている患者では運動機能が低下していること4)等から,痛みに対する恐怖心を持ちやすい性格傾向の患者では患肢をかばう行動が顕著になりCRPSを発症しやすいのではないかと考えられます。
特に,小児・思春期の患者においては,患者だけでなく痛みや運動に関連する家族の不適切な恐怖心がCRPSの発症に関連5)することが考えられており,逆に,家族が患肢の運動を行うように患者に対して積極的に働きかけるとCRPSの発症率が少ないとする報告6)もあります。
その他,医療行為を含む第三者行為によって発症したCRPS患者を診療する機会が少なくないことから,心理社会的要因(被害者感情,経済的補償など)も誘因になると考えられています7)。
【文献】
1) Sumitani M, et al:PAIN. 2010;150(2):243-9.
2) Birklein F, et al:Nat Rev Neurol. 2018;14(5): 272-84.
3) Convington EC:Progress in Pain Research and Management 6. IASP press, 1996, p192-216.
4) Osumi M, et al:Med Hypotheses. 2018;110: 114-9.
5) Simons LE:Pain. 2016;157(Suppl 1):S90-7.
6) Braus DF, et al:Ann Neurol. 1994;36(5):728-33.
7) Ochoa JL:J Neurol. 1999;246(10):875-9.
【回答者】
住谷瑞穂 神尾記念病院
住谷昌彦 東京大学医学部附属病院緩和ケア診療部部長/麻酔科・痛みセンター准教授