心房と心室を連絡する経路のいずれの部分に伝導障害が生じても房室ブロックとなる。房室結節伝導は自律神経の影響を受けるため機能的にブロックが生じやすいが,しばしば器質的ブロックと混同される。器質的ブロックは病的意義が大きいが,多くは加齢に伴う変性による。虚血やサルコイドーシスなど,器質的背景を同定できるものは少ない。カルシウム拮抗薬やβ遮断薬などの薬剤による房室ブロックもしばしば遭遇する。
洞調律のP波に続くべきQRSが部分的に脱落しているときに不完全房室ブロックと呼ぶ。QRSの脱落が多いときは,高度房室ブロックという用語も用いられる。完全か,不完全か判別できないときも高度房室ブロックと呼べる。
PQ時間が0.2秒を超えるもの。稀に重篤な伝導障害が潜在することもあるが,非侵襲的評価は限界が大きく,通常は経過観察も治療も行われない。
①ウエンケバッハ型:PQ時間が徐々に延長したあと,QRSが脱落する。多くは副交感神経活動による現象である。危険度は低く,対処は要さない。
②モービッツ型:PQ時間の明らかな延長がなく,QRSが脱落する。ウエンケバッハ型との鑑別が難しいことがある。QRS脱落の前後におけるPQ時間を比較する。モービッツ型は房室結節より下位の組織であるヒス束内あるいはヒス束以下の伝導障害であり,完全房室ブロックへの進行の恐れがある。ペースメーカの適応が高い。
③高度房室ブロック:ある期間,血行動態を維持できる心拍数が確保されていても,突然心拍数の著明な低下や長い心休止が現れることがある。継続的な心電図モニターが望ましい。多くはペースメーカの植込みを必要とする。
④完全房室ブロック:心房由来の興奮が心室に持続的に伝導しえないとき,完全房室ブロックという。発作性のものも含む。完全房室ブロックは別稿で扱う。
若年者や運動選手など副交感神経活動が正常なら,生理的に房室伝導は抑制されPR間隔は正常域を逸脱する。呼吸性洞不整脈や洞徐脈と同時に出現していれば,生理的な房室ブロックの可能性がある。一見,高度のブロックでも症状がなく,自律神経活動によって説明できるときは精査も加療も不要である。年齢や基礎心疾患から器質的背景を除外しにくいときは,専門医へのコンサルトが望ましい。
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