心不全とは,心臓が悪いために,息切れやむくみが起こり,だんだん悪くなり,生命を縮める病気と定義され,心臓の動きの悪い心不全(駆出率の低下した心不全,heart failure with reduced ejection fraction:HFrEF)と心臓の動きの保たれた心不全(駆出率の保たれた心不全,heart failure with preserved ejection fraction:HFpEF)に大別される。HFrEFは心筋梗塞や拡張型心筋症を伴うものが多く,一方HFpEFは高血圧症や心肥大を伴うものが多い。HFpEFは高齢者に多く,最近激増している。
労作時または安静時呼吸困難や浮腫が代表的な症状であるが,全身倦怠感や尿量減少などを主病像とするものもあり,診断は特に高齢者で難しい。血漿BNPが100pg/mL以上またはNT-proBNPが400pg/mL以上の場合は,症状が軽くても心不全が強く疑われる。胸部X線写真に加えて,心エコー図検査が確定診断に役立つ。心不全診断の決め手は左室拡張末期圧上昇の所見の存在であり,拡張早期左室流入血流速の増大,拡張早期僧帽弁輪部速の減少および三尖弁逆流血流速の増大を参照する。心不全の場合は心エコー図検査で左室駆出率(ejection fraction:EF)を計測し,HFrEF,HFpEFのいずれであるか分類する。
慢性心不全の場合,大きく2つの目的を念頭に治療方針を構築する。1つは生命予後の改善・予期せぬ心不全による再入院の回避であり,もう1つは心不全症状の軽減である。心不全治療薬ではこれらの2つの目的が両立しないことが多い。たとえば,心不全症状の軽減に用いられるループ利尿薬や強心薬は,予後を改善しないどころか,悪化させることもある。一方,HFrEF例で予後改善の目的で用いられるβ遮断薬は,一時的に心不全症状を悪化させることがある。
HFrEFにおいて予後改善につながる治療薬は,①アンジオテンシン変換酵素(angiotensin converting enzyme:ACE)阻害薬,アンジオテンシン受容体拮抗薬(angiotensin Ⅱ receptor blocker:ARB),②β遮断薬,③ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(mineralocorticoid receptor antagonist:MRA)である。いずれの薬剤も心不全症状の軽重によらず予後改善効果を有することが大規模試験で実証されている。一方,HFpEFにおいては予後改善につながる治療薬は現時点で報告されていない。したがって,現在HFpEFでは症状改善を目的とした治療しかできない。浮腫やうっ血を伴った呼吸困難に対しては利尿薬が第一選択となる。
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