【衛生環境の改善によるピロリ菌感染率の低下や,肥満に伴うGERDの増加が要因】
食道癌には,扁平上皮癌と腺癌の2つの組織型があり,この2つのタイプのがんの原因は大きく異なり,扁平上皮癌では喫煙・飲酒が,腺癌では胃食道逆流症(GERD),肥満が重要である。このうち,食道腺癌は,欧米を中心に,1970~80年代から急激に発生率が上昇し,すべてのがんの中で増加率が最も高いがんとなっている。
欧米における食道腺癌の増加の要因として,ヘリコバクター・ピロリ感染率の低下や,肥満の増加によるGERDの増加が考えられている。ピロリ菌感染は,わが国においては,通常,胃酸分泌の低下を介してGERDの発生に抑制的に作用しており,その感染率の低下は,酸分泌の相対的な増加を意味し,GERD増加につながる。また,肥満は,腹圧上昇を介して胸腔内との圧較差を増大させ,胃・食道間の逆流を増加させる。
わが国において,従来,扁平上皮癌が圧倒的多数を占める状況が続いてきたが,最近になり,食道腺癌の本格的な増加が報告されている。これは,衛生環境の改善によるピロリ菌感染率の低下が欧米に比べ50年遅れており,欧米に遅れること50年近く経っての食道腺癌の増加につながっていると考えられる。秋田県は長年,食道癌の年齢調整死亡率が全国1位であるが,その大部分は扁平上皮癌で,飲酒量の多いことが原因と考えられる。そうした秋田県においてさえも,最新のがん登録のデータで食道腺癌の増加が始まっていることが確認され1),この増加傾向は全国的なものと考えられる。
【文献】
1) Koizumi S, et al:J Gastroenterol. 2018;53(7): 827-33.
【解説】
飯島克則 秋田大学消化器内科/神経内科教授