胃内容物が食道内に逆流し長時間停滞することによって食道粘膜を刺激して不快な症状を起こしたり,食道粘膜にびらんや潰瘍などの損傷を引き起こす疾患を胃食道逆流症(gastro-esophageal reflux disease:GERD)と呼ぶ。GERDは,内視鏡検査で食道粘膜にびらんなどの限局性病変を描出できる逆流性食道炎(reflux esophagitis:RE)と,限局性病変は検出できないが不快な症状が出現する非びらん性胃食道逆流症(non-erosive reflux disease:NERD)に分類される。
REの原因のほとんどは,NERDとは違って,酸性胃内容物の食道内逆流と長時間停滞である。REは人口の10%程度と高い有病率を有しており,特に中年男性,高齢女性に高い。発症リスク因子は肥満,たばこ,アルコール飲料,大食,高脂肪食,などである。
胸焼け,呑酸などの逆流症状がある患者に上部消化管の内視鏡検査を行い,食道の下端部を中心に縦走粘膜襞の頂部に沿って縦走するびらんを認めれば診断が確定する。症状が乏しく,たまたま受検した健診の内視鏡検査で発見される例もある。縦走襞に沿った病変のみを認める場合は食道運動能の障害が軽い軽症型で,縦走病変に加えて横走するびらんや潰瘍を認める例は食道運動障害が強い重症型である。食道粘膜の生検を行うと少数の粘膜上皮内への炎症細胞浸潤,基底層の肥厚,乳頭の延長,上皮間隙の開大等を認める。病態の精査には食道内のpHやインピーダンスモニタリング検査を行う。
REの原因が酸性胃内容物の食道内逆流であるため,まず逆流を減らすために,肥満の解消,睡眠時の上半身挙上,禁酒,禁煙などの生活・食事指導を行う。ただし,これらで改善する例は多くはないため,薬物治療が必要となることが多い。薬物としては胃酸分泌抑制薬が第一選択であり,十分な臨床エビデンスを有している1)2)。胃酸分泌抑制薬の投薬で十分な効果が得られない場合には,酸中和薬やアルギン酸製剤,消化管運動機能改善薬,漢方薬などの追加投薬で症状の改善を図る場合もある。REは4~8週間の初期治療で食道病変の90%以上は治癒し,症状の80%以上は軽快・消失するが,投薬を中止すると再発することが多く,胃酸分泌抑制薬による維持療法を必要とする例が多い。食道粘膜に縦走病変のみを有する軽症例では合併症の発症リスクが低いため,自覚症状の消失をめざした間欠的な投薬が行われることがあるが,横走病変を有する重症例では合併症の発症を予防するため,自覚症状の消失に加えて食道のびらん,潰瘍などの治癒を維持することを目的とした維持治療が必要になる。
薬物治療に抵抗する場合,薬物の使用ができない例などでは逆流防止手術が検討されるが,このときには食道粘膜生検,食道内圧検査,pH・インピーダンスモニタリング検査などで病態を詳細に解析することが必要である。
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