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犯人は2人[痛み探偵の事件簿(8)]

No.4996 (2020年01月25日発行) P.32

須田万勢 (諏訪中央病院総合診療科/リウマチ膠原病内科,聖路加国際病院リウマチ膠原病センター)

監修: 小林 只 (弘前大学医学部附属病院総合診療部)

登録日: 2020-01-27

最終更新日: 2020-01-22

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〈あらすじ〉ある日,渡村リウマチクリニックに,慢性炎症性脱髄性多発神経炎(chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy:CIDP)で治療中の77歳女性が,左肩〜上肢に放散する痛みで紹介受診した。頸部のfascial pain syndromeを疑う渡村。さて,写六が下した診断とは??

今月も私のケースファイルから興味深い左上肢痛の症例を紹介しよう。

冬の足音が聞こえてきた寒い朝に,1人の患者が紹介状を携えて来院した。患者を診る前にざっと紹介状に目を通す。

「平素より大変お世話になります。左上肢痛の患者様をご紹介申し上げます。77歳女性。当院でCIDPに伴う痛みとして鎮痛薬で加療しておりましたが,痛みの改善が乏しく治療に苦慮しております。つきましては,貴院にてエコーガイド下fasciaハイドロリリースなる新規治療法を施行されているとのことで,本患者様の痛みに対して改善が得られるものかご教授いただきたく,ご紹介申し上げる次第です。下記に発症からの経過と現在までの治療をお示しいたします。

・X-2年:両側上肢の運動感覚障害,舌のしびれで発症。 ・X-1年6カ月:神経伝導速度検査にて,両側正中神経,右腓骨神経に軸索変性を伴う脱髄性多発ニューロパチーパターンあり。髄液で蛋白細胞解離あり,CIDPと診断(臨床病型は多巣性感覚運動型)。
・X-1年:免疫グロブリン点滴療法,ステロイドパルスのちプレドニゾロン100mg隔日投与から漸減し,現在は8mg隔日で維持。
・運動障害と感覚障害はほぼ消失したが,左肩甲帯〜肘窩にかけての痛みが残存。
・頸椎症を疑われており,頸椎単純X線とMRIでは頸椎の直線化(ストレートネック),C3/4-5/6で椎間板の膨隆と脊柱管狭窄あり(髄内に異常信号なし),C3/4-5/6で左優位に椎間孔の狭小化があるが,明らかな神経根の腫脹なし。プレガバリン(リリカ®)開始,漸増して150mg/日。さらにデュロキセチン(サインバルタ®)開始,漸増して40mg/日としたが効果不十分。

ご多用中恐縮ですが,何卒よろしくお願い申し上げます。

モリアティペインクリニック 院長 盛当●▲

こ,これは,Dr.盛当からの紹介状,というより挑戦状じゃないか!私の記憶によれば,CIDPとは2カ月以上にわたり進行性または再発性の経過で,四肢の筋力低下やしびれ感をきたす末梢神経の炎症性疾患だ1)。うちは神経内科じゃなくてリウマチ科だぜ,なんでうちに紹介してくるんだよ…と言いたいのを我慢して,まずは院長としての責任をもって自分で診察することにする。

ここ最近の写六の指導によりわかったことがある。どんな痛み症例でも,大切なことはいつも同じ。「炎症性」か「非炎症性」か,そして「非炎症性」の痛みは侵害受容性疼痛なのか,神経障害性疼痛(neuropathic pain)*1なのか(もちろん心因性の要素もあるが,まずは身体的な原因をきっちり詰めるべきである)。

*1:従来,neuropathic painの和訳は「神経障害性疼痛」とされ,「神経系の原発性病変あるいは機能障害を契機とし,あるいは原因として生じる痛み」である。一方,neurogenic painは「神経原性疼痛」と訳され,「末梢あるいは中枢神経系における原発病変,機能異常,あるいは一過性の混乱(perturbation)を契機とし,あるいは原因として生じる痛み」と定義(アンダーライン部を含む定義)される。アンダーライン部には,fasciaによる症状も含まれると推定している。なお,2019年12月現在,神経障害性疼痛に係る用語は国際的にも再度議論されている。参照:「ペインクリニック用語集 第4版」

Fascial pain syndrome(FPS)を含めた非炎症性の侵害受容性疼痛なら,その「発痛源」2)がどこか検索をすることが治療に直結する。

話を聞くと,CIDPと診断された当初は痛みがなく,筋力低下と感覚障害が主だったとのことで,ステロイド治療によりほぼ寛解した。CIDPと診断された頃から左上肢の痛みが間欠的に出現していたが,1週間前から急に増悪して持続しているそうだ。病歴と身体所見をまとめると,患者データのようになる。

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