本誌5月3日号のOPINION欄に掲載された「なぜ警察取扱死体数が減ったのか」と題した千葉大学法医学教室の石原憲治氏らの論文を拝読した。法医学の立場から、医師法の解釈によって異状死体届出数が減少した現状を危惧した論評である。法的解釈に関する好意的な受け止めをした医療現場の声(MRICにおける私自身の発言)も紹介する一方、「多くの臨床医が届出義務に対する考えを改め、従来届け出てきた事案、特に診療関連死を含む病院内の事案について、届出をしなくなったという可能性は否定できない」と指摘していることに強く違和感を覚えた。今回、反論を述べるとともに若干の考察を加えたい。
石原氏は、2003年に13万3922体だった警察取扱死体は増加し続け、一昨年には17万3833体と最高数を記録したが、昨年は16万9047体と前年比で2.8%減少したことを問題視し、「従来届け出ていたものが(医師法20条と21条の解釈により)届け出されなくなったと見るのが妥当だろう」と推論している。しかし、本当にそうなのだろうか。私は「従来届け出なくてもよかったものを届け出ていたのが、届け出なくなっただけ」ではないかと考えた。少なくともそういう解釈も当然成り立つはずである。
また、「欧米諸国をみると、全死体に対する法医解剖率は概ね5%から20%であり、わが国の約1.6%は異常に低い」との指摘に、門外漢の自分は驚いた。それは「欧米の数字が異常に高い」のではないかと直感したのだ。
さらに、石原氏は昨年の司法解剖数の前年比1.9%減や行政解剖を含む法医解剖数の0.9%減などの微減も問題視している。これはあまりにも短絡的な見方ではないか。私はこれらの数字の微減は、医師法20条、21条の“誤った解釈”に基づいた警察届出数が減った結果ではないかと考えている。
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