株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

酢の血圧降下作用の科学的根拠と有効な摂取方法は?

No.5014 (2020年05月30日発行) P.52

栗原伸公  (神戸女子大学大学院家政学研究科食物栄養学専攻教授)

登録日: 2020-05-31

最終更新日: 2020-05-26

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

血圧の降下作用があるとして酢の摂取が有効と宣伝されています。その科学的根拠と有効な摂取方法をご教示下さい。(大阪府 C)


【回答】

【ラジカル捕捉活性など,機序に関しては様々な報告あり。750mgの酢酸を含む食酢約1.9mL摂取で降圧効果が期待できる】

酢の摂取が,血圧が比較的高い人に対して降圧作用を示すことは古くから知られています。酢を調味に用いることにより,味を損ねることなく塩分摂取を減らせることが理由のひとつに挙げられます。加えて近年,酢そのものに降圧効果があるというエビデンスが示されています。

酢には,米酢,玄米酢,黒酢といった穀物酢,りんご酢,ぶどう酢等の果実酢など多くの種類があります。主成分の酢酸以外に,クエン酸や乳酸など他の有機酸をはじめ,様々なビタミン,ミネラルが含まれ,その割合は酢によって異なります。それら各成分の効果や相互作用も無視できないとも思われますが,これまでのところ示されているのは,それぞれの酢および酢酸の効果が中心です。

正常高値血圧者と軽症高血圧者が玄米酢飲料またはりんご酢飲料それぞれ1日当たり酢酸を750 mg含む量を10週間摂取すると,2~6週目以降10週まで,収縮期・拡張期血圧の有意な低下(141/83 mmHgから129~135/77~78mmHgへの低下)がみられたとの報告があります1)

一方,血圧は正常で肥満のある中年期男女が酢酸750mgを12週間毎日摂取したときには,4週目から体重は有意に減少したものの,収縮期・拡張期血圧の低下はみられていません。ただし,同じ実験で酢酸を毎日1500mgずつ摂取した群においては,当初約125mmHgだった収縮期血圧がわずかな減少(3~4mmHg)を示したとのことです2)。また,中年期の男女が2.07gの酢と0.15gのかつお節を含む飲料を16週間毎日飲用した実験では,中等度あるいは軽度の高血圧患者の場合は収縮期・拡張期血圧がそれぞれ10週,4週以降有意に低下したが,正常血圧群では血圧に有意な変化はみられなかったという報告があります3)

さらに,私たちの動物実験でも腎血管性高血圧モデルラットでは米酢摂取による降圧作用を観察しましたが,正常血圧を示す対照群ではその効果は認められませんでした。これらのことから,酢の摂取は特に正常高値血圧以上の血圧に対して降圧効果を示す可能性が高いと考えられます。

降圧メカニズムについては,in vitroの実験で様々な種類の酢にラジカル捕捉活性やアンジオテンシン変換酵素阻害活性がみられたとの報告があるほか,ヒト臍帯静脈内皮細胞(human umbilical vein endothelial cells:HUVEC)において酢酸が内皮型一酸化窒素合成酵素を活性化し,プロテインキナーゼAやAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)の阻害薬投与によりこの活性化が阻害されることが報告されています4)

また,高血圧自然発症ラット(spontaneously hypertensive rat:SHR)に酢や酢酸を摂取させると,血圧の低下とともに血清レニン活性やアルドステロン活性の有意な低下がみられたとの報告があります5)。さらに近年,SHRにおいて酢や酢酸の投与がAMPK活性化を通してペルオキシソーム増殖剤活性化受容体(PPAR)γ共役因子-1α(PGC-1α)やPPARγを増加させ,アンジオテンシンⅡ1型受容体(AT1R)の発現を低下させることで血圧低下をもたらす経路が示されるなど6),メカニズムの解明が進められているところです。

有効な食用方法は現在まで確立していませんが,上に示した知見から,正常高値血圧以上の場合,750mgの酢酸を含む食酢約1.5〜2mL(大匙1杯強)を飲用または食事とともに摂取すると,一定の降圧効果が期待できると考えられます。

【文献】

1) 梶本修身, 他:健康・栄養⾷品研究. 2003;6(1):51-68.

2) Kondo T, et al:Biosci Biotechnol Biochem. 2009; 73(8):1837-43.

3) Tanaka H, et al:J Clin Biochem Nutr. 2009;45(1): 93-100.

4) Sakakibara S, et al:Biosci Biotechnol Biochem. 2010;74(5):1055-61.

5) Kondo S, et al:Biosci Biotechnol Biochem. 2001; 65(12):2690-4.

6) Na L, et al:Eur J Nutr. 2016;55(3):1245-53.

【回答者】

栗原伸公 神戸女子大学大学院家政学研究科食物栄養学専攻教授

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

公立小浜温泉病院

勤務形態: 常勤
募集科目: 消化器内科 2名、呼吸器内科・循環器内科・腎臓内科(泌尿器科)・消化器外科 各1名
勤務地: 長崎県雲仙市

公立小浜温泉病院は、国より移譲を受けて、雲仙市と南島原市で組織する雲仙・南島原保健組合(一部事務組合)が開設する公設民営病院です。
現在、指定管理者制度により医療法人社団 苑田会様へ病院の管理運営を行っていただいております。
2020年3月に新築移転し、2021年4月に病院名を公立新小浜病院から「公立小浜温泉病院」に変更しました。
6階建で波穏やかな橘湾の眺望を望むデイルームを配置し、夕日が橘湾に沈む様子はすばらしいロケーションとなっております。

当病院は島原半島の二次救急医療中核病院として地域医療を支える充実した病院を目指し、BCR等手術室の整備を行いました。医療から介護までの医療設備等環境は整いました。
2022年4月1日より脳神経外科及び一般外科医の先生に常勤医師として勤務していただくことになりました。消化器内科医、呼吸器内科医、循環器内科医及び外科部門で消化器外科医、整形外科医の先生に常勤医師として勤務していただき地域に信頼される病院を目指し歩んでいただける先生をお待ちしております。
又、地域から強い要望がありました透析業務を2020年4月から開始いたしました。透析数25床の能力を有しています。15床から開始いたしましたが、近隣から増床の要望がありお応えしたいと考えますが、そのためには腎臓内科(泌尿器科)医の先生の勤務が必要不可欠です。お待ちいたしております。

●人口(島原半島二次医療圏の雲仙市、南島原市、島原市):126,764人(令和2年国勢調査)
今後はさらに、少子高齢化に対応した訪問看護、訪問介護、訪問診療体制が求められています。又、地域の特色を生かした温泉療法(古くから湯治場として有名で、泉質は塩泉で温泉熱量は日本一)を取り入れてリハビリ療法を充実させた病院を構築していきたいと考えています。

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top