1 糖尿病性腎症進展防止対策の現況
①糖尿病の食事療法は総エネルギー摂取量の制限が原則である。
②CKDの食事療法は従来,蛋白質制限とそれに伴う異化の亢進を防ぐための十分なカロリー摂取が推奨されてきた。
③超高齢化社会を迎え,特にフレイル・サルコペニアが問題となる昨今,腎臓単独を考える以上に,全人的な生活の質を考えた医療を行うことが肝要である。
2 エネルギー摂取制限
①糖尿病およびCKDにおける総エネルギー摂取量の基準は個々の患者の生活状態・合併症を考慮し,適切な量を判断するのがより重要である。
②フレイル・サルコペニアでは,エネルギー制限のみ実行すると筋力低下などの大きな障害をきたすことがあり,注意が必要である。
3 蛋白質制限と腎不全
①糖尿病およびCKDにおいて,蛋白質制限により推算糸球体濾過量(eGFR)低下や腎不全進行を抑制する報告もある。
②厳しい蛋白質制限で腎機能低下を抑制できたとしても,高齢者や栄養障害のある患者では,生命予後を含めた問題に注意が必要である。
③低蛋白食の腎保護効果を検証したランダム化比較試験(RCT)は数多く報告されているが,その結果は一貫していない。
④糖尿病においても,蛋白質量は糖尿病性腎症のリスクとはならない。顕性腎症期以降において糖尿病性腎症の進行抑制に対して蛋白質制限が有効である可能性もあるが,臨床的エビデンスは十分ではない。
4 フレイル・サルコペニアを合併した保存期CKD
①フレイル・サルコペニアを合併したCKD患者では生命予後は悪い。
②フレイル・サルコペニアを合併したCKD患者における食事療法は,適切な蛋白質摂取量とともに十分なエネルギー摂取量を確保することが重要である。
5 食塩制限
①糖尿病患者の食塩摂取目標値は,男性7.5g/日,女性6.5g/日未満とし,高血圧合併例の食塩摂取量は6.0g/日未満。
②CKD患者の食塩摂取目標値は3~6g/日。ただし,食欲低下によりフレイル・サルコペニアを生じないような配慮が必要である。
③特に高齢者においては,尿量,身体活動度,体格,栄養状態等の臨床的背景を考慮し適宜調整が必要である。
6 CKD患者に厳格な栄養管理は必要か?
実臨床としては「腎」という単一臓器のみを考えるのではなく,「人全体」としてとらえることが重要である。すなわち,生命予後・腎の予後のみを考えるだけでなく,生活の質を考えた管理が重要である。