腹膜炎(peritonitis)は,その原因により原発性と続発性に分類される。特発性は,感染源や病変となりうる先行病変を腹腔内に認めないものを指し,比較的稀である。原因としては,bacterial translocationや何らかの血行性移動が起こりうる背景疾患の存在が想定されており,いわゆるleaky gutや類洞の肝内免疫機構が破綻した状態にある肝硬変が代表的である。そのため,肝硬変患者に発生した場合は,特に特発性細菌性腹膜炎(spontaneous bacterial peritonitis:SBP)と称する。
続発性腹膜炎は,消化管穿孔や重篤な血流障害(特に血栓症など),そして急性膵炎などの臓器の炎症の波及として起こるものであり,しばしば全身的に重篤な状態となっている。
腹膜炎はその経過により急性と慢性にわける臨床的分類もあるが,続発性腹膜炎の多くは細菌感染を伴う急性腹膜炎として発症する。近年増加している持続携行式腹膜透析(continuous ambulatory peritoneal dialysis:CAPD)に伴うものや結核性の腹膜炎は,慢性腹膜炎として発症するものが多い。
腹膜炎は,その原疾患・病変の治療を優先するものが多いが,しばしば全身性感染症として重篤な状態となっていることを理解することが重要で,迅速な対応が必要となる場合が多い。
本稿では,これらの腹膜炎のうち特に細菌感染を伴うものについて概説する。
細菌性腹膜炎の多くで腹痛や発熱を認める。SBPの場合,そのほかに黄疸や腹水を認めることも多い。
腹膜炎が比較的限局している場合は局所の圧痛や自発痛に原拠するが,炎症範囲が広がるにつれて腹部全体の痛みや圧痛を伴うようになり,その場合は汎発性腹膜炎(panperitonitis)と称し非常に重篤であり,反跳痛や筋性防御などの理学所見が陽性となる。
炎症波及に伴い,麻痺性イレウスや腹膜刺激により悪心・嘔吐がみられることもある。ただし,高齢者などでは比較的症状が弱いものもあり,腹膜炎の除外には細心の注意が必要である。
急性腹膜炎では,左方移動を伴う白血球増加やCRP上昇を血液検査で呈する。続発性の場合,腹部CT検査などにより他の臓器病変の評価を行い,外科手術の必要性などについても迅速に判断する。
細菌性腹膜炎の診断には培養検査が重要であるが,急性腹膜炎ではその結果を待たずに治療を実施する1)。
SBPでは他の可能性のある原発疾患の除外のほかに,腹水からの臨床検査と細菌培養が重要である。腹水検査において,SBPでは多くの場合外観が混濁しており,腹水中の多核白血球の数が250/mm3以上であればSBPの疑いが濃厚で,500/mm3以上あれば,培養の結果が陰性でもSBPと診断できる。腹水からの培養は,腹水をベッドサイドで血液培養ボトルに注入することにより感度を上げることができる。一方,特発性の急性腹膜炎では消化管に由来する細菌感染が起因となることが多い。
慢性腹膜炎,特に結核性腹膜炎では起因菌の特定は重要である。CAPDに由来するものでは,混濁した腹水中の白血球数100/μL以上,好中球≧50%であることと培養やグラム染色で菌が同定されることが必要である。
結核性腹膜炎では通常の培養検査での検出力は低く,腹水中のアデノシンデアミナーゼ(ADA)測定やPCR法による菌の検出が有用である。
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