非特異性多発性小腸潰瘍症は,1960年代に岡部ら1)によって提唱された難治性,原因不明の小腸潰瘍症である。わが国における患者数は200例程度と推察されている稀な疾患ではあるが,国の指定難病となっている。女性に好発し,多くは幼・若年期に発症し,貧血,低蛋白血症などの特徴的な臨床症状を呈する2)。本症が常染色体潜性遺伝の形式をとる疾患であることがわかり,その後の遺伝子解析の結果,プロスタグランジンの細胞内トランスポーターを規定するSLCO2A1遺伝子の変異であることが明らかとなった。その結果から,細胞内プロスタグランジンの利用障害が本症の主たる病態ではないかと推察されており,chronic enteropathy associated with SLCO2A1(CEAS)とも呼ばれる。
持続性潜性の消化管出血による高度の貧血および浮腫など低蛋白血症に関連した症状が主症状である。顔面蒼白,易疲労感,浮腫,第二次性徴を含めた成長障害がみられる。消化管の狭窄症状として腹痛を訴えることはあるが,下痢や肉眼的血便など明らかな消化管症状に乏しい。
著明な小球性低色素性貧血が認められ,ヘモグロビン値は5~10g/dL程度であることが多く,特に女性で高度である。血清フェリチン,血清鉄は低値を示す。高度の低蛋白血症と低アルブミン血症が認められる。白血球増多はほとんどなく,CRPは陰性ないし軽度の上昇にとどまる。便潜血検査は持続的に陽性を示す。上部消化管内視鏡検査では,難治性の十二指腸潰瘍を認めることがあり,小腸内視鏡では,境界が明瞭な浅い潰瘍が観察される。小腸潰瘍は輪走,縦走ないし斜走し,長期罹患例では管腔変形,狭窄を伴うことがある3)。原因遺伝子であるSLCO2A1の遺伝学的検査は可能であるが,保険適用外である。
残り973文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する