Helicobacter pylori(ピロリ菌)は胃内の強酸条件環境に適応した,グラム陰性らせん状桿菌である。様々な疾患,特に,慢性胃炎,消化性潰瘍,胃癌の原因として知られる。その他の関連疾患として胃MALTリンパ腫や,胃過形成性ポリープ,機能性ディスペプシア(厳密にはH. pylori関連ディスペプシア),免疫性血小板減少性紫斑病(ITP),鉄欠乏性貧血等がある。
通常,幼少期に感染し,成人期には感染を起こさないとされる。H. pyloriは土壌の存在菌で,上下水道整備以前では飲用水からの経口・糞口感染が想定されている。現在の日本では,家庭内感染,特に母子感染が考えられている。また,兄弟姉妹が存在する場合,水平感染の可能性も指摘される。夫婦間での感染はほぼ成立しない。除菌後の再感染は基本的にはなく,再感染を疑う状況でも,むしろ,除菌後の陰性の効果判定が不十分であったことを考慮すべきである。しかし,除菌後に長期国外に滞在した際に再感染したと想定される報告もあり,再感染例も存在する。わが国では,H. pylori感染症の除菌治療のレジメンは,一次除菌,二次除菌までは,健康保険で決められたものを利用する。上記の理由からも除菌後効果判定を確実に実施することが重要である。
感染診断には非侵襲的検査法と侵襲的検査法がある。非侵襲的検査として,血清あるいは尿中抗H. pylori IgG抗体価測定,便中H. pylori抗原検査,13C-尿素呼気試験がある。上部消化管内視鏡検査下に行う侵襲的検査には,生検検体の迅速ウレアーゼ試験,鏡検法,培養検査がある。また,近年は蛍光プローブを用いたPCR法での感染診断も保険収載された。これは,上部消化管内視鏡検査時に胃液を採取し,専用機器で迅速PCR検査を行うものである。
感染が確認,または疑われる患者に対し,上部消化管内視鏡検査がなされているのかを確認する。消化性潰瘍,胃癌,胃MALTリンパ腫などをスクリーニングしておく必要がある。除菌治療で胃粘膜所見の変化が起き,早期胃癌が発見しにくくなるケースもあるので,除菌前の胃内の観察は重要である。一方で,除菌後の上部消化管内視鏡検査は,炎症で発見しにくかった胃癌が所見として現れるケースもあるので実施すべきである。
除菌療法は,酸分泌抑制薬1剤+抗菌薬2剤を組み合わせた3剤併用療法を行う。健康保険の適用があるのは以下の組み合わせである。
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