【発症リスクは生活習慣・食生活,薬剤性であり,それらを避けるようにする】
大腸憩室は,低残渣食などにより停滞した便を排出するために腸管内の圧が上昇し,内輪筋の脆弱部が腸管壁外に突出した状態です。本邦では,内視鏡検査を受けた60歳以上の79%に大腸憩室が認められると報告されています1)。憩室炎は,憩室内の細菌感染や虚血性変化による,憩室内圧の上昇や憩室壁のびらんが原因とされています。憩室を有する患者の約10%に憩室炎が伴います。
憩室炎の発症リスクとしては,遺伝的要因,生活習慣・食生活,薬剤性に大別されます。予防のための薬物療法,外科的治療,内視鏡治療に確定したものはなく,リスク要因を避けるように指導するしかありません。
憩室炎の発症の50%は遺伝的要因と言われ,遺伝子解析では憩室炎発症に関連する30以上の遺伝子が特定されています。兄弟間での発症は通常の発症率より3倍高く,また,一卵性双生児のほうが二卵性双生児より発症リスクが高いと報告されています2)。
食事の内容としては,豆類,野菜,果物,全粒穀物などの食物繊維を多く含む食事が憩室炎発症のリスクを低減させます。しかし,サプリメントでの食物繊維の補給はリスク軽減に寄与しません。一方で,赤身の多い肉やスイーツは発症リスクを増大させます。ナッツやポップコーン,小さな種の果物はその形態から憩室炎を引き起こすため,避けるよう提言されることもありますが,それらの摂取と憩室炎発症との関連は認められないと報告されています3)。
生活習慣としては,肥満,体重増加,喫煙がリスク因子です。強度の高い運動(週に57METs以上の運動)は発症予防に効果的とされています4)。ジョギングが約6METsなので,1日1時間半程度のジョギングを週に7回行うことに相当します。また,アルコールの単独摂取は憩室炎発症と関連しませんが,アルコール依存症は憩室炎リスクを増加させます。
薬物歴として,アスピリンは憩室炎のリスクとされています。憩室炎の既往がある場合,定期的な使用を避けるよう提案されていますが,心血管系疾患の既往がある場合は休薬によるリスクを十分に考慮する必要があります。非アスピリン,非ステロイド性抗炎症薬,オピオイド鎮痛薬,コルチコステロイドも憩室炎の発症や穿孔と関連しています。
憩室炎の予防として,メサラジン,リファンピシン,整腸剤の投与には十分なエビデンスはなく,投与は推奨されていません。しかし,憩室炎後に引き起こされる慢性的な腹痛に対しては効果があるといった報告もあります5)6)。
再発予防のために適切な指導が重要です。憩室炎は症状が軽い場合は保存的な治療が可能ですが,狭窄や瘻孔,腹膜炎を伴う場合は外科手術が必要となることもあります。再発した際には速やかに医療機関を受診するように指導し,早期に治療を開始することが重要です。
【文献】
1)Naoyoshi Nagata, et al:Int J Colorectal Dis. 2014;29(3):379-85.
2)Strate LL, et al:Gastroenterology. 2013;144: 736–42. e1;quiz e14.
3)Strate LL, et al:JAMA. 2008;300(8):907–14.
4)Strate LL, et al:Am J Gastroenterol. 2009;104 (5):1221–30.
5)Ojetti V, et al:Rev Recent Clin Trials. 2018;13 (2):89–96.
6)Picchio M, et al:J Clin Gastroenterol. 2016;50 (suppl 1):S64–9.
【回答者】
濵田 潤 東京品川病院消化器内科医長
石井直樹 東京品川病院消化器内科部長