昨年9月の欧州糖尿病学会で報告されたランダム化試験“DAPA-HF”では、収縮障害心不全(HFrEF)例に対して、SGLT2阻害薬による、生存率を含む転帰改善作用が示され、大きな話題となった。今回のADAでは、事前設定された探索的解析として、SGLT2阻害薬による2型糖尿病新規発症抑制作用が報告された。報告者であるSilvio E Inzucchi氏(イェール大学、米国)は、「SGLT2阻害薬に2型糖尿病発症予防作用あり」と結論したが、12日のシンポジウムで示されたデータも含め、詳細を紹介したい。
DAPA-HF試験は、症候性HFrEF例の「心不全増悪・心血管系死亡」リスクに対するSGLT2阻害薬の作用を、プラセボと比較したランダム化二重盲検試験である。その結果、SGLT2阻害薬は上記イベントリスクを26%、有意に低下させることが明らかになった。本試験の特徴は、SGLT2阻害薬という血糖低下薬を用いながら、55%にあたる2605例が糖尿病を合併していない点である。これら2605例が、今回の解析対象となった。
本検討における「糖尿病新規発症」の定義には、「試験通院2回連続でHbA1cが6.5%以上」だけでなく、「主治医判断による、血糖低下薬処方を伴う2型糖尿病診断」も加えられている。
その結果、追跡期間18.2カ月(中央値)における糖尿病新規発症率は、プラセボ群の5.0/100例・年に対し、SGLT2阻害薬群では3.4/100例・年となり、SGLT2阻害薬群におけるハザード比は0.68(95%信頼区間:0.50-0.94)の有意低値となっていた。ただし「糖尿病新規発症」の内訳(HbA1c高値 vs. 主治医判断による血糖低下薬開始)は明らかでない。
この結果からInzucchi氏は、SGLT2阻害薬群で糖尿病発症が有意に抑制されたと結論する。一方、HbA1cの推移は、試験開始時から両群ほぼ同等であり、試験開始後8カ月の時点でも両群間に有意差はなかった(SGLT2阻害薬群:5.7%、プラセボ群:5.8%)。そしてこの差は試験期間終了まで開いていない。
そこで試験薬以外の血糖低下薬の併用率を見てみると、試験開始時から1年後にかけての増加率は、インスリンがSGLT2阻害薬群の0.7%に対しプラセボ群で2.0%増加、逆にDPP-4阻害薬はSGLT2阻害薬群の増加率が2.8%とプラセボ群の1.5%よりも高い傾向を認めたものの、その他血糖低下薬併用率の増加幅は両群で同等だった。
DAPA-HF試験は、AstraZeneca社から資金提供を受け実施された。