じん肺症とは ,じん肺法により「粉塵を吸入することによって肺実質に生じた線維増殖性変化を主体とする疾病」と定義されている1)。じん肺症は職業性肺疾患に分類され,珪肺,アスベスト肺,溶接工肺が代表的である。中でも結晶質シリカなどの長期吸入が原因である珪肺とアスベスト(石綿)の吸入によるアスベスト肺は,労働災害の観点からも臨床上重要である。
じん肺症は,仕事中に吸入した粉塵に伴い発症する肺実質の疾患である。じん肺症は職業性肺疾患であり,診断には粉塵作業の有無や職場環境も含めた詳細な職歴聴取が重要となる。職歴としては鉱山・炭鉱業,陶磁器製造業,石切業,鋳物製造業,隧道工事業,自動車製造業,アスベスト建築や建造物の解体業などが代表的な職種である。石,特に砂岩に多く含まれる結晶質シリカなどの吸入により生じる珪肺は,通常無症状のことが多く,画像所見において,上肺野優位に大小多数の結節影を呈する点が特徴である。肺門部と縦隔リンパ節腫大が確認される症例も多く,サルコイドーシスとの鑑別を要する症例もあり,診断に迷う場合は,肺生検を考慮する必要がある。
アスベスト吸入が原因となるアスベスト肺では,下肺野優位に網状陰影を呈する点が特徴である。特発性肺線維症の画像所見と類似するが,胸膜プラークの存在がアスベスト肺を疑うポイントである。アスベスト曝露が25fibers/mL/年では発症せず,それ以上では曝露総量とアスベスト肺の発症リスクは正比例することが報告されている2)。無症状なことも多いが,進行すると咳嗽や呼吸困難が出現する。進行例では肺底部を主体にfine cracklesが聴取され,呼吸機能検査において拘束性障害とガス交換能の低下が確認される。アスベスト曝露の医学的所見としては,画像所見のほか,肺組織や気管支肺胞洗浄液に石綿小体や石綿繊維が一定以上みられることが重要である。
じん肺症は粉塵吸入中断後も進行する疾患であり,定期的な胸部X線撮影や呼吸機能検査を実施する。現在,珪肺に対する有効な薬物治療はなく,疾患の進行に伴い咳や労作時の呼吸困難が出現した際には,対症療法を行っていく。珪肺には発がん性が確認されており,肺癌の発症リスクが高く,禁煙指導を実施する。また,肺結核の合併も多く,定期診察時には肺結核の合併がないか,症状や画像所見から評価する必要がある。
アスベスト肺も同様に,現在有効な治療薬剤はなく,定期的な経過観察を行い,症状に合わせた対症療法を実施する。進行し,低酸素血症を合併した症例には在宅酸素を導入する必要がある。アスベスト肺では,喫煙との相乗効果にて肺癌発症につながることが報告されており,積極的な禁煙指導も重要である。じん肺症患者では呼吸器感染症を合併することも多く,予防接種の実施も重要である。
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