種々の原因により消化吸収が障害され,様々な栄養素の欠乏により,下痢や浮腫,貧血などの様々な症状を生じる疾患の総称である。本稿では原発性の吸収不良症候群としてセリアックスプルーと乳糖不耐症を扱う。セリアックスプルーは遺伝的素因を背景に食餌中のグルテンによって生じる腸管の自己免疫性疾患である。乳糖不耐症は乳糖をグルコースとガラクトースに分解する乳糖分解酵素(ラクターゼ)の活性が低下し,乳糖を消化吸収できず下痢などの腹部症状や体重増加不良をきたす疾患である。
吸収不良症候群が疑われた際の鑑別疾患のひとつであるが,わが国では非常に稀な疾患である。全栄養素の吸収障害がみられ,下痢,体重減少,発育障害,貧血など,様々な症状をきたす。血清学的診断として抗組織トランスグルタミナーゼ(tissue transglutaminase:tTG)抗体や抗筋内膜抗体(endomysium antibody:EMA)が有用であるが,わが国では抗体が検出された報告はほとんどない。確定診断には組織学的所見が必須であり,絨毛の萎縮と表層上皮内へのリンパ球浸潤を確認する。
小腸の刷子縁に存在するラクターゼの活性は出生時にピークを迎えるが,成長するにつれて活性が低下し,乳糖不耐症となる。また,腸管感染症等による小腸粘膜障害が生じたときに一時的な乳糖不耐症が発生することもある。先天的にラクターゼを持たない先天性乳糖不耐症は非常に稀である。乳糖不耐症では消化吸収されなかった乳糖による浸透圧性下痢や,乳糖が腸内細菌によって発酵することによる鼓腸や腹痛,酸性便などがみられる。乳製品を摂取した後にこのような症状が出る場合に,乳糖不耐症が疑われる。乳糖除去により症状が消失し,再摂取により症状が出現するようであれば診断できる。経口乳糖負荷試験では症状の出現,血糖値の上昇がみられない(20mg/dL未満の上昇),呼気中水素ガス濃度の上昇(20ppm以上の上昇)がみられる。
生涯を通じての厳格なグルテン除去食が唯一の治療である。しかし,多くの食品にグルテンが含まれているため,厳格な無グルテン食は困難である。グルテン除去食について知識のある栄養士の指導を受ける必要がある。グルテンを1食当たり20mg未満に除去することで多くの患者は改善し,約7割の患者はグルテン除去食の開始から2週間以内に症状の改善を認める。
乳糖を含む食事を制限する。先天性乳糖不耐症では,母乳やレギュラーミルクの摂取を中止して無乳糖ミルクを摂取させる。β-ガラクトシダーゼ製剤を摂取するとラクターゼ活性を補助することが可能である。
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