機能性ディスペプシア(functional dyspepsia:FD)は,症状の原因となる器質的,全身性,代謝性疾患がないにもかかわらず,慢性的に心窩部痛や胃もたれなどの心窩部を中心とする腹部症状を呈する疾患である1)。Rome Ⅳ基準では,「症状の原因となるような器質的,全身性,代謝性の疾患がないにもかかわらず,つらいと感じる,食後のもたれ感や早期飽満感,心窩部痛,心窩部灼熱感のうち1つ以上の症状があり,これらが6カ月以上前に初発し,直近の3カ月以上続いているもの」と定義されている2)。日本人の一般集団での有病率は,7~17%である3)。
FDの症状のうちで,食後のもたれ感や早期飽満感を有するものを食後愁訴症候群(postprandial distress syndrome:PDS),心窩部痛や心窩部灼熱感を有するものを心窩部痛症候群(epigastric pain syndrome:EPS)と呼んでいる。健常集団に比べ,通院者集団では,PDSとEPSのオーバーラップが多くなる4)。
良好な患者-医師関係を構築することは,FDを含む機能性消化管障害の治療に有効であり,その上で,生活指導や食事指導を施すことは重要である。Helicobacter pylori(H. pylori)が陽性の場合には,FDではなく「H. pylori関連ディスペプシア(HpD)」5)〜8)ということも考えられるので,まずはH. pylori除菌療法を施す。除菌しても数カ月で症状の改善のない場合はFDと診断し,一般には,PDSに消化管運動機能改善薬(prokinetics)を,EPSには酸分泌抑制薬を投与するが,患者症状への有効性をみつつ両者それぞれを組み合わせたり,六君子湯などの漢方薬や,タンドスピロン,スルピリドなどの抗うつ薬・抗不安薬に切り替えたり,加えたりする。
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