【質問者】
小谷友美 名古屋大学医学部附属病院 総合周産期母子医療センター准教授
【体重増加制限を厳格に行うことの良否に関するエビデンスに乏しく,個人差を考慮しゆるやかな指導を行う】
わが国における平均出生体重は減少の一途をたどり,1980年代には3200gあったものが,現在は約3000gとなっています。一方で低出生体重児の出生率は1980年には5.2%でしたが,2018年には9.4%と増加し,経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development:OECD)加盟国の中では最も高い割合です。背景には,妊娠前のやせ,母体の低栄養および体重増加不良,喫煙,多胎妊娠の増加などが挙げられます。
日本産科婦人科学会周産期データベースに基づいた4万6659人の妊婦の解析では,約6%が胎児発育不全で,原因として母体の体重増加不良を挙げています1)。また,浜松市の妊婦食事調査において,妊娠期間を通して,摂取エネルギーは約1600 kcal/日であり,「日本人の食事摂取基準」より37%低値でした。このようにわが国における若い女性のやせ,母体の栄養摂取不足,体重増加不良は,出生体重減少,低出生体重児増加の一因となっていると考えられています。
第二次世界大戦中,ナチスドイツによる封鎖から約700kcal/日の配給となったオランダの飢餓2)や,中国の大躍進政策の失敗による飢饉を経験した妊婦の研究3)から,妊娠中に低栄養環境にさらされた場合,児の成長後に生活習慣病発症のハイリスク群となることが報告されています。Barkerらは,妊娠中の低栄養環境で児は省エネルギー体質を獲得し,生後,飽食という環境にさらされた場合,成長後の生活習慣病のハイリスクとなるという「倹約表現型仮説」を提唱しています4)。これらの背景から,上述のわが国の現状は,将来世代の健康に影響を及ぼす可能性が危惧されます3)。
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