【質問者】
加藤明彦 浜松医科大学医学部附属病院血液浄化療法部部長/病院教授
【*高カリウム(K)血症がないか,そのリスクが低い場合はK制限は行わない。それ以外は食事の調整を考える。 *高K血症の高リスク例でRAAS阻害薬を継続するかの判断は,患者の自己管理能力やアウトカム,RAAS阻害薬のエビデンスのある疾患の存在などを考慮する。 *K吸着薬は患者のQOLを下げ,合併症のリスクがある。患者の利益が不利益を上回る場合は短期的な処方を心がける。】
高K血症は,保存期CKD患者において最も高頻度に生じる電解質異常です。わが国のレセプトデータを用いたビッグデータ研究では,CKD患者の4~5人に1人の割合で認め,1年観察すると6人に1人が新規に発症することがわかっています1)。さらに同研究では,CKD G stageの進行につれ,その頻度が高くなり,特にG3b以降に顕著となること,高K血症は死亡リスクと関連していることが示されました。よって,高K血症を予防することが,CKD管理目標として重要となります。
CKDの管理法を考える前に,K代謝をオーバービューしましょう。極端な食事でなければ,通常,経口のK摂取量は1日約50~150mmol(2~6g)とされます。このうち,便中に1日約10mmol(または,経口摂取量の10%,最大15~20mmol)が排泄され,残りが体内(細胞外液中)に入ります。細胞外液中のK含有量は約50mmolしかないため,そこに40~140mmolものKが入れば,理論的には急激な血清K濃度上昇をきたすはずです。しかし,実際には,多くのKは食事中の糖と一緒あるいはアルカリの形で細胞外液中に入るため,インスリンの作用や細胞内プロトン(H+)との交換により,細胞内に移行(細胞内シフト)します。細胞内には3500mmolものKがあり,100mmol程度のKが入っても細胞内K濃度は大して上昇せず,細胞内外のK濃度勾配によって規定される静止膜電位には影響を起こしません。
しかし,ずっと細胞内に溜め続けると最終的には細胞内K濃度の有意な上昇をきたします。細胞内シフトはあくまでも緊急避難的対応であり,細胞外から尿(つまり体外)への排泄も同時に生じます。この尿排泄は意外にもかなり迅速な反応で,経口K摂取直後から生じ,数時間でピークとなることが知られており,血清K濃度上昇に対するものでは説明できず,消化管に何らかのセンサーがあることが推測されています2)。この尿K排泄は皮質集合管でのアルドステロン作用にほぼ依存しており,アルドステロン作用阻害は腎機能低下(Kを排泄するネフロンの減少)時に高K血症を生じさせる最大の因子のひとつです。
これらのことから,CKDにおける高K血症には,経口K摂取(および便排泄),細胞内シフト,尿排泄の3つの要因があることが理解できるでしょう。よって,高K血症予防の第1の方策として,経口K摂取の制限が考えられます。Kは普遍的な細胞内主要ミネラルであるため,細胞の詰まった食べ物にはKが多いことが理解できます。実際,人体の最大の細胞内液量を誇るのは筋肉ですが,蛋白摂取(動物あるいは植物)はK摂取の大きな源であることが知られています3)。
蛋白質以上に有名なK供給源は野菜や果物です。植物(plant)はKが成長に必須なミネラルであること(肥料としても必須),また,その摂取量の多さや処理をしない(焼く・煮る)で摂取することがK供給量の多さにつながっていると考えられます。
しかし,野菜や果物など植物由来の食べ物(plant-based diets:PBD)の摂取は,生活習慣病(肥満,高血圧,糖尿病)ひいては心血管病(冠動脈疾患,脳血管疾患)のリスクを低減させることがわかっています4)。さらに,PBDはCKD患者において代謝性アシドーシスを軽減させ,CKD進行も抑制させる可能性が示唆されるようになってきています5)。PBD由来蛋白は動物性蛋白と違い,CKD進行には必ずしもつながっておらず,アルカリ源として酸負荷を減らすことにより腎障害を軽減させる可能性が指摘されています。
最近,注目が集まっているgut microbiota(腸内細菌叢)に対してもPBDは良い影響をもたらすことが知られ,これが代謝改善,臓器保護につながっていることが示唆されています6)。gut microbiota障害と関連する便秘がCKD進行リスクとなり,さらに高K血症のリスクでもあることは心にとどめておきたい事実です。
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