【病気を理由に降格はできない。後任部長を決め,基本給は下げず(手当なし),部長職を外し部長待遇にするのがよい】
精神科医で産業医もしている夏目 誠です。13社で40年以上勤務したキャリアがあります。
弁護士の原 哲男先生と協議しました。両者の意見を併記いたします。
産業医の立場(私や多くの産業医)での対応ですが,まず管理職交代の件に関しては,後任の部長を必要に応じて任命します。
次に病気を理由に降格という対応は,原先生の指摘にあるように,できません。
私は,今までの当事者の実績・貢献やトラブルが生じる可能性も考慮して,部長待遇などとしています。それが難しい場合,基本給を下げず部長職を外す(管理職手当はなくなる)のがよいのではないでしょうか。
この場合に原先生が指摘される,本人や家族等から異議が出ないようにするため,措置をとる前に本人とよく協議し,本人に「この度,私の精神的病気などにより困難が生じておりますので,管理業務,当直業務等の負担を軽減していただけるよう申し入れます」というような内容の願い書を取り付けておくことが重要です。
最後に,対応による病状悪化の件ですが,非常に少ないと判断します。職務負荷が減るからです。ただ対象者が不本意に思わないようにする配慮が求められます。
原先生は弁護士の観点から,質問を3つに区分し,回答しています。
「降格」は,雇用実務の世界ではたびたび登場してきますが,労働基準法その他の労働法規に直接の定めがありません。そこで,就業規則に定めのある場合には,その定めに従って処理し,定めのない場合には,裁判例や実務の通例に従って処理することになります。
(問)降格および管理職の交代はどのようにすべきでしょうか。
(答)就業規則に定めのない場合でも,人事権の行使として裁量的判断によって降格させることが可能であるとするのが裁判例です。
そして,降格や管理職の交代は,人事の権限を有する立場にある人がその肩書と名前を記載した「辞令書」を交付して行うのが一般的な実務のやり方です。
(問)降格の場合,基本給は減給となりますが,そのことが病状を悪化させてしまう可能性はありますか。
(答)「降格」をされると,権限,責任,必要とされる技能の低下を伴うのが普通で,これに伴って賃金の低下という結果をもたらすことが一般的です。基本給が減給になるほか役職手当や残業手当などもカットされますから,かなりの減額になってしまいます。
病状を悪化させる人もいるかもしれませんが,「休職」扱いにされると無給になってしまう上に,休職明けまでに治癒できない場合には自然退職になってしまいますので,そのことを説明すると,ほとんどの方やそのご家族が納得されます。
(問)病気を理由に降格というのは可能なのでしょうか。
(答)病気は誰でもなる可能性がありますし,なりたくてなる人もいないようなものですから,病気になったことを理由に降格することはありません。
【回答者】
夏目 誠 大阪樟蔭女子大学名誉教授,日本産業ストレス学会元理事長
原 哲男 原・白川法律事務所,元東京弁護士会副会長