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無茶な勧告[失敗事例から学ぶ勧告権(2)]

No.5252 (2024年12月21日発行) P.36

五十嵐 侑 (五十嵐労働衛生コンサルティング合同会社・代表/産業医)

登録日: 2024-12-24

最終更新日: 2024-12-20

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  • 事例の説明

    産業医が職場巡視をしているときに,立入禁止のエリアを見つけて「どうしたんだこれは?」と衛生管理者に質問をします。衛生管理者が「実は最近化学物質の漏洩騒ぎがありまして……」と説明をすると,それを聞いた産業医が「何かあったらどうするんだ! 工場を建て替えるべきだ」と,かなり大がかりな対策を勧告します。産業医から無茶な勧告をされた衛生管理者が,社長に相談したところ,社長からは「無茶なことを言われても困るし,そういう場面はなるべく見せないようにしよう」という回答が……。

    失敗の2つの原因

    1 改善提案の実行可能性が低い

    勧告権を行使しただけで,その事象がどのようにすれば改善するかを現場に丸投げするのはよくないでしょう。産業医は現場の専門家ではないため,必ずしも改善方法に熟知している必要はないと思います。しかし,改善にどれだけのコストや時間がかかるのか,それが企業の体力で対応できるのか,といった実行可能性については把握しておく必要があります。工場の稼働を数カ月止めなければいけなかったり,経営が傾くようなコストがかかったりする対策は,実行可能性が低いでしょう。また,その対策を行うことによって作業性が落ちてしまい,逆に安全を損なうこともあるかもしれません。実行可能性の低い無茶な勧告はしないようにしましょう。

    2 現場の話を聞かない

    現場には現場の様々な事情があります。今回の事例のように,大事には至らないような小さなトラブルやエラーは数多く発生します。いつも職場巡視しているところであっても,産業医が知らないところでいろいろなことが起きているものです。初めて聞いて,びっくりしたとしても,冷静にじっくりと現場の状況に耳を傾けるように注意して下さい。また,くれぐれも,産業医には隠していたのかとか,産業医の立場がないがしろにされたとかと憤慨しないようにお願いします。

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