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小さなことでも勧告[失敗事例から学ぶ勧告権(3)]

No.5253 (2024年12月28日発行) P.36

五十嵐 侑 (五十嵐労働衛生コンサルティング合同会社・代表/産業医)

登録日: 2024-12-31

最終更新日: 2024-12-25

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  • 事例の説明

    職場巡視で「職場が汚いぞ!5S(整理・整頓・清潔・清掃・躾)を徹底せよ!」と勧告したり,「従業員が産業医面談を受けずにいつのまにか復職していたのはおかしい!」と勧告したり,さらには「健康診断後の保健指導で従業員に受診勧奨をしたのに,その後に受診しないのはおかしい!」と勧告したりと,産業医が勧告を連発しています。産業医から毎度小さなことで勧告されてばかりの衛生管理者が,社長に相談したところ,社長からは「もう別の産業医の先生にお願いしましょうか」という回答が……。

    失敗の2つの原因

    1 軽微な事象への勧告

    5Sの不徹底や,復職ルールの未整備,受診勧奨後の未受診といった,比較的軽微な事象は,勧告権の対象とはならず,望ましい勧告権の行使のやり方とは言えません。勧告権の行使は,日常的に行うものではなく,重大な法令違反や健康障害に対して行うものであり,事業者への働きかけとして最高位のものだからです。重大性が低い事項については,本人への保健指導,衛生管理者への「指導」「助言」などによって解決を図る必要があります。

    2 企業に「あるべき論」を押しつけた

    企業には企業ごとのやり方があります。5Sといっても,その程度感は異なりますし,産業医の美的感覚が正解ではありません。また,復職の仕組みは企業によって変わり,産業医面談が必須のところからそうではないところまで様々です。受診勧奨がどのように位置づけられているかも企業次第です。産業医としてのあるべき形や価値観を企業側に押しつけてばかりでは,企業も従業員も困ってしまいます。特に,そのことで勧告権の行使をされたら,企業側も大きく困惑してしまうでしょう。

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