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根拠不明であいまいな勧告[失敗事例から学ぶ勧告権(1)]

No.5251 (2024年12月14日発行) P.30

五十嵐 侑 (五十嵐労働衛生コンサルティング合同会社・代表/産業医)

登録日: 2024-12-13

最終更新日: 2024-12-11

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  • 事例の説明

    産業医が衛生管理者に対して,現場の改善を勧告しています。衛生管理者としては,産業医から突然「勧告」されても……と困っています。そして,産業医に対して,なぜ勧告が必要なのか,具体的にどのように改善したらよいのかと尋ねています。しかし,産業医の言い分としては,その根拠は危ないからであり,改善は衛生管理者が考えるものだ,とあいまいなまま突っぱねています。衛生管理者は,そんなあいまいなことを勧告されても……とさらに頭を悩ませてしまっているという事例です。

    失敗の2つの原因

    1 根拠が不明だった

    勧告権を行使する対象は,労働者に対して危険なことが起こりうる事象となるため,確かに労働者にとって危ないから改善する必要がある,という言い分に間違いはないのですが,それだけでは根拠としては明らかに弱いでしょう。働く現場には様々な労働者にとって危ない事象があり,言うなれば,大なり小なり危ないものに囲まれながら仕事をしている労働者だらけです。たとえば,医療職が働く病院でも針やメスがあったり,感染することがあったり,放射線があったり,重量物があったり,と様々な危険源がありますよね。そのような中で「危ないから」という理由だけでは改善の必要性は伝わりません。そのため,何が誰にとってどのくらい危ないのか,どのくらいの発生可能性があるのか,緊急性があるのか,といったことを丁寧に示すことが必要になります。また,時には労働安全衛生法や労働契約法などの法的な根拠も求められ,場合によっては過去の労働判例も根拠として示す必要があります。

    2 勧告先が衛生管理者

    事例では,産業医は衛生管理者に対して勧告を行っています。しかし,勧告先は事業者であって衛生管理者ではありません。衛生管理者としても,自分の責任範囲で対応できないことを言われても困ってしまいます。

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