薬剤性腸炎は,薬剤の投与により下痢,下血,腹痛などの臨床症状が惹起され,腸管にびらんや潰瘍などの炎症性変化を生じるものである。抗菌薬投与後に起こる偽膜性腸炎と出血性腸炎が比較的高頻度であるが,非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)起因性腸炎,microscopic colitis,抗癌剤,免疫抑制薬などによるものもある。
薬剤投与後に下痢や腹痛などがみられたら,患者の薬剤服用歴(お薬手帳)を調べ,原因となった薬剤を特定する。抗菌薬投与後に起こる偽膜性腸炎と出血性腸炎では,内視鏡検査が診断に有用である。Clostridioides difficile(CD)の感染による腸炎は,偽膜性腸炎としてよく知られているが,浮腫,発赤,粗糙な粘膜,血管透見消失などの非特異的腸炎像,さらには正常粘膜に近い症例もあり,慎重な対応が望まれる。偽膜性腸炎では,糞便を用いたCDに対する抗原ならびにトキシン検査が必須であり,嫌気培養が必要な症例もある。出血性腸炎では便培養によるKlebsiella oxytocaの検出が重要である。プロトンポンプ阻害薬(PPI)によるmicroscopic colitisや,NSAIDsによる小腸粘膜傷害の診断が遅れる傾向にあり,注意が必要である。
薬剤性腸炎の治療の原則は,原因となる薬剤を同定し,薬剤を中止することである。抗菌薬による出血性大腸炎,PPI,NSAIDsなどによる薬剤性腸炎も薬剤中止と対症療法だけで症状,検査所見は軽快することが多い。臨床的な取り扱いが問題となるのはCD感染症(CDI)による腸炎である。日本感染症学会のCDI診療ガイドライン1)と,米国感染症学会(IDSA)および米国医療疫学学会(SHEA)からのガイドライン2)を参照されたい。
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