Cogan症候群(Cogan’s syndrome:CS)は,間質性角膜炎とメニエール病に類似した前庭聴覚障害を起こし,しばしば全身性血管炎を伴う稀な慢性炎症性疾患である。聴力障害の予後は悪く,早期の治療介入を行わないと不可逆性の難聴となる。発症に性差はなく,小児期や老年期の発症がきわめて少ないのもCSの特徴である。内耳症状が進行性の患者では,副腎皮質ステロイド(以下,ステロイド)の積極的な使用が望まれる疾患である。
希少疾患であり診断基準や分類基準は存在しないが,典型的CSは以下の3つを満たすものとされる1)。
①眼病変:非梅毒性間質性角膜炎,時に虹彩炎,結膜炎,結膜下出血を伴う
②メニエール病類似の聴覚前庭障害:1~2カ月で難聴に至る進行性聴力低下
③眼徴候および聴覚前庭徴候の出現間隔:2年以内
また,以下を満たすものは,非典型CSに分類される。
①典型的CSと異なるタイプの眼病変(間質性角膜炎に加えて,あるいは代わりに強膜炎,上強膜炎,網膜動脈閉塞,脈絡膜炎,網膜出血,乳頭浮腫および眼球突出といった,著明な炎症性眼病変を認める),間質性角膜炎を伴わない結膜炎,虹彩毛様体炎,あるいは結膜下出血
②定型的眼病変とメニエール病に類似しない聴覚前庭症状を伴う場合,あるいは聴覚前庭症状が眼病変と前後2年以上離れて発症する場合
鑑別疾患として,眼症状と前庭聴覚障害を有する感染症(梅毒,結核,クラミジア感染症など)や炎症性疾患(多発血管炎性肉芽腫症,高安動脈炎など)に注意する。
治療の参考となる大規模な臨床試験やガイドラインは存在しないため,過去の症例を参考として,免疫抑制療法を行うこととなる。その際は,病態が類似した血管炎症候群の治療法に準じて行う。副反応を最小限に抑えるために,ステロイドやシクロホスファミドにより寛解導入が達成されたら,副反応の比較的少ないアザチオプリンなどに変更する。眼科,耳鼻科と協力体制をつくることも重要である。全身に及ぶ臓器病変を総合的に把握し,内科医がステロイドを適切な時期に導入した上で,それぞれの臓器における後遺症を最小限に食い止める努力が必要である。なお,完全に閉塞してしまった血管により症状が重症化している場合には,外科的バイパス術も考慮される。
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