気管支拡張症は,気管支での繰り返す炎症によって,不可逆的な気管支の拡張が生じた病態である。非結核性抗酸菌症やびまん性汎細気管支炎など,様々な疾患により気管支拡張症を呈する。持続する咳嗽,喀痰が主たる症状であり,時に血痰や胸痛を認めるが,無症状で肺の一部に気管支拡張症を認める場合もある。進行すると呼吸苦を生じる。
持続する咳嗽や喀痰などの自覚症状を呈し,他覚所見として胸部の聴診で,病変部にcoarse cracklesを聴取する。胸部X線写真では,気管支壁の肥厚や囊胞状あるいは輪状の陰影を認める。気管支拡張症の確定診断は,胸部CT検査によって,気管支の拡張所見を認めることで行う。気管支拡張症となった原因を検索することが非常に重要である。非結核性抗酸菌症,肺結核後遺症,アレルギー性気管支肺アスペルギルス症,びまん性汎細気管支炎や原発性線毛機能不全症候群,免疫グロブリン欠損症,日本では稀であるが囊胞性線維症などが気管支拡張症の原因となる。また,肺線維症やサルコイドーシスなどで,牽引性気管支拡張を呈する場合もある。気管支拡張症の原因を十分に検索し,その原因が明らかとなり治療が可能な場合には,原疾患に対する治療を優先して行う。
気管支拡張症の治療は,急性増悪の頻度を低減すること,病変の進行を抑制すること,症状を軽減することが主たる目的である。そのためには薬物療法だけでなく,予防接種や呼吸リハビリテーションなどの補助的治療も重要である。慢性期ではびまん性汎細気管支炎に準じて,14員環,15員環系マクロライド系薬の少量長期投与を行う。これはマクロライド系薬による抗炎症作用や,持続感染していることの多い緑膿菌に対するクォーラムセンシング抑制による病原性軽減作用などを期待して行われている。一方で,マクロライド系薬少量長期療法を行うと抗酸菌のマクロライド系薬耐性を誘導する可能性がある。マクロライド系薬は非結核性抗酸菌症に対するキードラッグであるため,少量長期投与を行う場合には,非結核性抗酸菌症による気管支拡張症を否定する必要がある。
気管支拡張症の急性増悪時には肺炎球菌,インフルエンザ菌,モラクセラ・カタラーリス,緑膿菌などが原因菌となることが多い。経験的治療では,こうした原因菌をカバーする抗菌薬の選択を行う。外来での加療が可能な場合には,経口のフルオロキノロン系薬の投与,入院での加療が必要な症例で肺炎球菌やインフルエンザ菌が原因菌として考えられる場合は,スルバクタム/アンピシリンやセフトリアキソンを投与する。緑膿菌が原因菌として考えられる場合には,タゾバクタム/ピペラシリンやカルバペネム系薬,フルオロキノロン系薬の点滴静注を行う。気管支拡張症の患者では急性増悪を繰り返し,抗菌薬を頻回に投与する場合があるので,薬剤耐性菌が急性増悪の原因菌となる場合がある。急性増悪時には喀痰の細菌培養を実施し,原因菌の特定とともに薬剤感受性試験結果を勘案し,適切な抗菌薬の選択を行う。さらに重症の場合や緑膿菌が原因菌の場合にはPK/PDを考慮し,投与量や投与回数を多くする必要がある。
病状が進み呼吸不全が進行した場合には,在宅酸素療法の導入を検討する。
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