薬剤の投与中に起きた呼吸器系障害の中で,薬剤と関連があるものを言う。薬剤には,医師が処方したものだけでなく,市販薬,生薬,サプリメント,また麻薬などすべてを含む。分子標的治療薬や生物学的製剤など新しい薬剤の登場により,近年,薬剤性肺障害は多様化してきている。
すべての薬剤は肺障害を起こす可能性があり,薬剤投与中のみならず投与終了後にも発生する。特に間質性肺炎の診療においては,常に鑑別疾患として念頭に置く必要がある。
薬剤性肺障害の発症を疑うポイントは,①原因となった薬剤の摂取歴(市販薬,健康食品,非合法の麻薬・覚醒剤にも注意),②薬剤に起因する臨床病型の報告,③他の原因疾患の否定(感染症,心原性肺水腫,原疾患増悪などの鑑別),④薬剤の中止による病態の改善(自然軽快もしくは副腎皮質ステロイドにより軽快),⑤再投与による増悪(一般的に誘発試験は勧められないが,その薬剤が患者にとって必要で誘発試験の安全性が確保される場合)などであり,「薬剤性肺障害の診断・治療の手引き」の診断基準に従って診断する1)。被疑薬による同様の薬剤性肺障害の報告があると,診断の信頼性は高まる。PNEUMOTOX ON LINE2)や,医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページ3)などから情報を得ることができる。
血清KL-6やSP-A,SP-Dなど間質性肺障害のマーカーは,診断補助や病勢モニタリングに有用である。一方,薬剤リンパ球刺激試験(DLST)は,薬疹では保険適用となっているが,薬剤性肺障害では保険適用がなく,診断検査としての信頼性も高くない。
薬剤投与から数分以内に発症するものから,投与から数年かけて発症するものまで多様である。いずれにしても,被疑薬として疑われれば速やかに中止する。画像所見は多様であり,びまん性肺胞障害(DAD),非心原性肺水腫(NCPE),器質化肺炎(OP)類似型,非特異性間質性肺炎(NSIP)類似型,急性好酸球性肺炎(AEP)類似型などに分類され,薬剤によっては同様のパターンを呈することがあり,報告などを参考に被疑薬の推定を行う。
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