ノバルティスファーマは6月29日、高血圧治療薬ディオバン(一般名:バルサルタン)を巡る臨床研究不正事件で同社と元社員白橋伸雄氏が薬事法(現・医薬品医療機器法)違反の罪に問われた裁判について、最高裁が28日に上告棄却を決定し、無罪が確定したと発表した。
ディオバンを巡っては、慈恵医大、京都府立医大、滋賀医大、千葉大、名古屋大の5大学で行われた医師主導臨床研究でデータ操作などの疑惑が相次いで浮上。日本の臨床研究に対する世界の信頼を失いかねない事案として社会問題化し、厚労省による刑事告発を経て、京都府立医大の臨床研究(KYOTO HEART Study)のサブ解析論文に関与した元社員とノバルティス社が薬事法の誇大広告禁止規定違反の疑いで起訴されるに至った(2014年7月)。
第一審の判決(2017年3月)で東京地裁(辻川靖夫裁判長)は、データ改竄などの公訴事実は認定しながらも、学術雑誌への論文掲載は薬事法が規制する虚偽広告には当たらないとして無罪を言い渡した。控訴審判決(2018年11月)でも東京高裁(芦澤政治裁判長)は一審判決を支持し、検察側は直ちに最高裁に上告した。
無罪確定を受け、ノバルティス社は「この問題の本質は法的な側面にとどまらず、医師主導臨床研究において弊社が適切な対応を取らなかったことにあると考えており、社会的な責任は感じている。この問題が日本の患者・家族、医療関係者、研究者の皆様ならびに社会全体にご迷惑をおかけし、また、日本の医学・医療の信頼を大きく失わせてしまったことに対して深く反省し、あらためてお詫びする」とのコメントを発表した。
ディオバン事件など臨床研究不正問題を追及してきた桑島巖J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)理事長は29日、「白橋氏の無罪が確定しても、彼らが論文不正を行ったことを裁判の場で証明できたことは大きな成果。我々の目的は罰を与えることではなく真相究明であり、その意味では大変意義のある裁判だった。ノバルティス社は不正論文に基づく医薬品広告によって医師を欺いて得た莫大な利益を国庫に還元すべきだ」との見解を本誌に寄せた。
【関連記事】
[J-CLEAR通信]二審判決も無罪判決─ディオバン臨床研究不正事件
InnovationとIntegrityで医療に貢献 どこよりも信頼される企業へ【シリーズ・製薬企業はどう変わろうとしているのか〈ノバルティス ファーマ〉】
医学ジャーナリスト協会賞授賞式、桑島巖氏『赤い罠』に大賞「ジャーナリスト顔負けだ」