腸結核は消化管の結核菌感染症の総称である。肺結核に伴う続発性腸結核と肺結核のない原発性腸結核に大別される。抗酸菌はリンパ装置を介して感染するため,消化管ではリンパ組織が豊富な回盲部に好発する。無治療のまま放置すると感染が持続し,慢性炎症性腸疾患の鑑別疾患として重要となる。なお,消化管非定型抗酸菌感染症の病態はいまだ不明であり,別個に取り扱われる。
腸結核は比較的特徴的な回盲部病変を呈するので,これらの病変を確認し,結核菌感染を直接的,あるいは間接的に証明することで診断に至る。組織学的には乾酪性類上皮細胞肉芽腫や結核菌の存在が確認されるが,その陽性率は高くない。便培養や組織PCR法の陽性率も低率であり,間接法であるインターフェロン-γ(IFN-γ)遊離試験(IGRA)が感度の高い検査法として広く用いられている。
消化管病変の特徴から本症を疑うことが診断・治療の基本である。小腸・大腸内視鏡検査や小腸X線検査で本症の特徴である回盲部の輪状ないし区域性潰瘍,瘢痕萎縮帯,回盲弁の開大,偽憩室形成を確認した場合,生検組織所見と培養検査を提出し,IGRAを施行する。
IGRAは結核菌特異抗原の刺激によりリンパ球遊離するIFN-γを測定する方法であり,現在クオンティフェロン®TB-ゴールド法(QFT)とT-スポット®法(T-SPOT)が用いられている。IGRAは感度の高い検査であるが,偽陰性があるので,ツベルクリン反応など他の検査結果とともに慎重に判断する。
本症とクローン病はいずれも回盲部を好発部位とする。両疾患のX線・内視鏡所見は異なっているが,鑑別困難な症例も存在する。クローン病の治療薬である抗TNF-α抗体は結核菌感染症に対して禁忌である。したがって,鑑別に難渋する場合は,腸結核としての治療を優先させるなどの慎重な判断が必要である。
腸病変と結核菌感染が確認された場合,肺結核の標準療法に準じて抗結核療法を行う。ストレプトマイシン(SM),エタンブトール(EB),イソニアジド(INH),リファンピシン(RFP),ピラジナミド(PZA)から薬剤を選択し,一定期間投与することで良好な治療効果が得られる。
腸結核は他の結核菌感染症と同様に,感染症法第2類感染症に分類されており,届け出が義務づけられている。したがって,治療開始に伴い速やかに届け出る必要がある。
通常,腸結核は臨床症状が軽微であり,経口薬投与による外来治療が基本となる。その際,治療薬剤の副作用に注意することが重要である。中でもEBは視力障害の原因となるので投与を慎重に判断し,投与例では定期的に視力検査と外眼部検査を施行する。SM使用例では定期的な聴力検査が必要である。また,INHはビタミンB6欠乏症の原因となるので,注意を要する。
腸結核の輪状潰瘍が治癒することにより管腔狭小化をきたす。特に小腸病変は高度狭窄に至ることがある。この場合は,外科治療ないし内視鏡的バルーン拡張術の適応となる。
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