減塩、またカリウム(K)摂取増加は、血圧低下作用こそ証明されているものの、心血管系(CV)転帰への影響は不明だった。しかしこのたび、中国で実施されたランダム化試験(RCT)“SSaSS”において、K含有食塩は通常食塩に比べ、脳卒中をはじめ、CV転帰も改善することが明らかになった。8月27日からWeb上で開催された欧州心臓病学会(ESC)学術集会にて、Bruce Neal氏(ジョージ国際保健研究所、豪州)が報告した。
SSaSS試験の対象は、中国在住の、脳卒中既往例、あるいは60歳以上の血圧管理不良例(収縮期血圧[SBP]:降圧薬服用例で140mmHg以上、非服用例で160mmHg以上)を合わせた20995例である。重篤な腎疾患、あるいはK製剤/K保持性利尿薬使用例(いずれも自己申告のみ)は除外されている(血液検査は実施せず)。きわめて簡便で、実用的なプロトコールである点をNeal氏は強調していた。
20995例の平均年齢は65.4歳、49.5%が女性だった。脳卒中既往は72.7%に認めた。また79.3%が降圧薬を服薬しており、血圧管理不良だったのは59%(全体の血圧平均値は154/89mmHg)だった。
これらは日常生活で、通常の食塩を用いる群(通常食塩群)とKを25%含有する代替食塩を用いる群(K含有食塩群)に、居住村ごとにランダム化され、最低でも6カ月間、平均4.74年間観察された。観察開始5年後の時点で、「K含有食塩」群の92%、「通常食塩」群の94%が、割り付け通りの食塩を用いていた。
その結果、追跡期間中(年1回評価)のSBPは「K含有食塩」群で、「通常食塩」群に比べ、3.3mmHgの有意低値となっていた。24時間尿中ナトリウム排泄量も3.45g、有意に低かった。
そして1次評価項目である「脳卒中」発生率は、「K含有食塩」群で2.91%/年となり、「通常食塩」群(3.37%/年)に比べ、HRは0.86(95%CI:0.77-0.96)の有意低値となっていた。この脳卒中減少は、「年齢」、「性別」、「降圧薬の有無」、「糖尿病合併の有無」、「開始時血圧の高低」など、あらゆるサブグループで一貫して観察された。
同様に「脳卒中・急性冠症候群・血管死」も、「K含有食塩」群におけるHRは0.87(0.80-0.94)と、有意に低かった。さらに総死亡HRも0.88(0.82-0.95)だった。いずれもカプランマイヤー曲線は観察開始後早期から乖離を始め、観察終了時まで差は開き続けた。
一方、「K含有食塩」群における「高カリウム血症」の増加は認められず(HR:1.04、95%CI:0.80-1.37)、血管死による突然死も0.94(0.82-1.07)だった。高Kによる危険性は観察されなかった形だ。
ディスカッションにおいてBertram Pitt氏(ミシガン大学、米国)は、「K含有食塩」群における脳卒中減少が糖尿病合併例でも認められた点(HR:0.78、95%CI:0.63-0.97)に注目していた。その上で、SGLT2阻害薬やミネラルコルチコイド拮抗薬が2型糖尿病の脳卒中を抑制しない以上、このデータは非常に重要だと指摘している。
本試験は、豪州国立保健医療研究評議会からの資金提供を受けて実施された。また報告と同時に、NEJM誌ウェブサイトで公開された。