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糖尿病治療歴の長い患者では膵癌を積極的に疑うべきか

No.5082 (2021年09月18日発行) P.50

正宗 淳 (東北大学大学院消化器病態学分野教授)

登録日: 2021-09-16

最終更新日: 2021-09-14

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一般的に5年,10年と糖尿病治療を受けている患者における膵癌の可能性のある腫瘍マーカー(たとえばCA19-9)と,まったく糖尿病がなく長く経過していて膵癌の可能性のある腫瘍マーカーとで,評価の違いをどのように意識するべきなのか,ご教示下さい。ごく軽度の異常(たとえば,100U/mL未満の異常高値)の場合,どのように評価するべきでしょうか。糖尿病治療歴の長い患者では,画像診断で検出不能な膵癌を積極的に疑うべきでしょうか。(兵庫県 T)


【回答】

【原因不明の体重減少等がみられたら,可能性を念頭においた精査が必要】

糖尿病が膵癌のリスクであることは,国内外のメタ解析やプール解析により明らかとなっています。わが国におけるコホート研究のプール解析1)において,膵癌のリスクは1.85倍でした1)。Batabyalら2)は88研究のメタ解析により,糖尿病患者における膵癌のリスクは1.97倍であり,特に糖尿病罹病期間の短い症例において高いことを報告しています。罹病期間が10年以上の症例における膵癌リスクは1.36倍,5~9年では1.72倍であったのに対して,1~4年では1.86倍,1年未満の患者は6.69倍と罹病期間が短いほど膵癌リスクが上昇していました。これは,膵癌の発生により,糖尿病の発症をみた症例が含まれているためと推測され,罹病期間が長いほど発がんリスクが上昇する炎症性発がんとは逆になっていることに注意が必要です。

糖尿病は様々ながんのリスクを上昇させるため,定期的なスクリーニングが必要となります。CA19- 9については,非担癌糖尿病患者では健常人に比べて高いとの報告3)や,血糖コントロールの改善に伴いCA19-9値が改善したとの症例報告もありますが,その高値がみられた際に糖尿病患者ということで,膵癌の可能性を念頭においた膵胆道系の精査を行わない理由にはならないと考えます。

新規発症の糖尿病や血糖コントロール悪化が膵癌診断の契機になりうる一方,その対象が膨大であり費用対効果の面などから,すべての新規糖尿病症例やコントロール悪化例に膵臓の精査を行うことは現実的でなく,どのような症例で精査を行うかが重要となります。2年以内に糖尿病と診断された新規症例を,糖尿病診断後18カ月以内に膵癌を合併した症例と膵癌非合併例にわけて,臨床像を比較した韓国からの報告があります4)。膵癌を合併した症例では非合併例に比べて,①高齢,②体重減少,③糖尿病診断前の肥満指数(body mass index:BMI)が低い,④糖尿病の家族歴を認めないという特徴がみられました。そして,糖尿病の家族歴がないことと併せて,65歳以上,体重減少>2kg,発症前のBMI<25kg/m2のいずれか1つ以上を認めた場合は,感度80.8%,特異度67.6%で膵癌を診断しえたと報告しています。

また最近,1年前と比べた血糖値と体重の変化,年齢をスコア化することで,感度80%,特異度80%で膵癌を診断しえたと米国Mayo Clinicのグループが報告しています5)

長期に糖尿病を罹患されているということのみで,膵癌をいたずらに恐れる必要はないと思いますが,定期的な画像スクリーニングに加えて,特に高齢者で原因不明の血糖コントロールの悪化や体重減少がみられた際には,膵癌の可能性を念頭においた精査が必要と考えます。

【文献】

1)糖尿病と癌に関する委員会:糖尿病. 2013;56(6): 374-90.

2)Batabyal P, et al:Ann Surg Oncol. 2014;21(7): 2453-62.

3)Gul K, et al:Am J Med Sci. 2011;341(1):28-32.

4)Lee JH, et al:J Clin Gastroenterol. 2012;46(7): e58-61.

5)Sharma A, et al:Gastroenterology. 2018;155 (3):730-9.e3.

【回答者】

正宗 淳 東北大学大学院消化器病態学分野教授

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