急性気管支炎は,ウイルスや細菌の感染によって生じる下気道の炎症である。鼻症状,喉症状,咳症状のいずれも同様にみられるものを狭義の感冒と定義する一方で,咳症状を主徴とする場合を急性気管支炎とみなす。
発症3週間までの咳嗽を急性咳嗽とし,鼻症状,喉症状を伴わない場合に本疾患を疑う。肺炎を伴わないことが急性気管支炎の診断に必要で,胸部画像で肺炎を除外する必要がある。
本疾患の原因の90%以上がウイルスであり,パラインフルエンザウイルス,アデノウイルス,RSウイルス,インフルエンザウイルス,コロナウイルスが含まれる。そのため,多くの場合は抗菌薬を必要とせず,アセトアミノフェンや喀痰調整薬の内服といった対症療法となる。ただし,周囲への感染の危険性を考慮して,インフルエンザウイルスや新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に関しては,蔓延状況に応じて積極的に抗原またはPCR検査を行う必要がある。インフルエンザであれば,抗インフルエンザ薬による早期改善や重症化予防効果が得られる。
細菌の関与は少ないものの,百日咳やマイコプラズマによる急性気管支炎については,主に周囲の感染状況や接触歴から考慮する。小児における百日咳は,咳嗽後の嘔吐や吸気時の笛音が典型的とされるが,成人では非特異的な症状が多い。百日咳は,鼻腔ぬぐい液のLAMP法,血清抗PT抗体,百日咳菌IgM/IgA抗体で診断する。治療にはマクロライド系抗菌薬の投与を行うが,咳症状に対する効果は限定的であり,周囲への感染を減じることが主たる目的となる。また,成人のマイコプラズマ気管支炎は咽頭拭い液によるLAMP法または抗原検査で診断するが,治療介入については定まった見解がない。
以上は健常な成人を想定した治療方針であるが,慢性閉塞性肺疾患(COPD)が基礎にある場合は,原因微生物として細菌の割合が増加することに留意する。インフルエンザ菌,肺炎球菌,モラキセラが代表的である。この場合,モラキセラがほぼ全例でβラクタマーゼを産生するため,βラクタマーゼ阻害薬を配合したペニシリン系抗菌薬を選択するが,近年のインフルエンザ菌におけるβラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性の増加から,呼吸機能が低下している重度の基礎疾患を持つ患者にはニューキノロン系抗菌薬を選択する場合がある。ただし,薬剤耐性菌対策の視点から,キノロン耐性を起こしにくい薬剤を考慮する必要がある。
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