【長期のピロリ菌感染でピロリ菌が生息可能な胃粘膜がなくなった状態か,A型胃炎を合併しているケースが考えられる】
内視鏡検査で明らかに萎縮性胃炎(O-3)を認め,ウレアーゼ試験や血清ピロリ菌抗体とも陰性ということ,どう考えるかですが,大きく2つの可能性が考えられます。①過去にピロリ菌感染はあったものの,長期の感染で萎縮は重度,つまり,木村・竹本分類のO-3となり,胃内にピロリ菌が生息可能な粘膜はほぼなくなった状態で,ABC胃癌リスク型検診では,D群と言われるものです。多くは高齢でこのような状態になります1)。この場合,抗H. pylori IgG(Hp IgG)抗体陰性,ウレアーゼ陰性となりますが,ペプシノゲン法では陽性であり,胃癌リスクは最も高い段階と考えられます。
もう1つは,②ピロリ菌感染は過去にあったが,除菌後の胃粘膜で抗Hp IgG抗体陰性,ウレアーゼ陰性となり,そこに以前からA型胃炎(自己免疫性胃炎)を合併しているケースです。この場合には,ピロリ菌感染により萎縮は幽門前庭部から進展しますが,一方で,A型胃炎による胃体部を中心とした萎縮は最初からあるので,比較的若年でもO-3の段階になりうるわけです。ペプシノゲンは陽性で,かつ抗壁細胞抗体も陽性になりえます。
1973年にStricklandとMackayは慢性胃炎をA型胃炎とB型胃炎の2つに分類しました。A型胃炎は,北欧,特にスカンジナビア半島に多い遺伝性の自己免疫疾患で,胃体部を中心とした胃底腺領域に萎縮性変化がみられ,抗壁細胞抗体陽性,抗内因子抗体陽性を認めることもあります。この胃炎は,何らかの自己免疫機序で,胃底腺の壁細胞が破壊され,胃酸や内因子の分泌が低下するとともに,抗内因子抗体により長期経過ではビタミンB12の吸収が阻害され,悪性貧血(巨赤芽球性貧血)をきたします。
酸分泌低下で幽門前庭部のG細胞からガストリン分泌が増加するとともに鉄吸収が阻害されます。高ガストリン血症(しばしば,1000pg/mLを超える)により,腸クロム親和性細胞様(enterochromaffin-like:ECL)細胞が刺激され,その過形成から胃カルチノイドなどの神経内分泌腫瘍を発症します。また,胃粘膜の高度萎縮と腸上皮化生が起こり,胃癌発症リスクも約3倍になります。
鉄欠乏性貧血やビタミンB12吸収障害による悪性貧血をきたすまでは無症状ですが,1型糖尿病や自己免疫性甲状腺炎,白斑症,シェーグレン症候群などを合併することもあります。また,ビタミンB12欠乏の結果,亜急性連合性脊髄変性症が起こることがあります。上部消化管内視鏡検査では,萎縮は幽門前庭部にはなく,胃体部のみに認められる,いわゆる「逆萎縮」を認めます。
一方,B型胃炎は,幽門前庭部を中心とする萎縮性変化がみられ,抗壁細胞抗体は陰性,抗内因子抗体も陰性であり,現在のH. pylori感染胃炎に相当します。
【文献】
1) 三木一正, 他, 編:胃炎をどうする? ABCがんリスク層別化で, 内視鏡で, X線で. 第2版. 日本医事新報社, 2017.
【回答者】
鈴木秀和 東海大学医学部内科学系消化器内科学教授/ 付属病院臨床研修部部長