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認知症予防に関しての地中海食,MIND食と久山町研究

No.5086 (2021年10月16日発行) P.52

猪原匡史 (国立循環器病研究センター脳神経内科部長)

登録日: 2021-10-14

最終更新日: 2021-10-12

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①地中海食とMIND食では,なるべく避けるべき食品にチーズが入っています。欧米人はチーズを多食しますが,乳脂肪は飽和脂肪酸でありコレステロール増加による動脈硬化を起こすからでしょうか。また,肥満をきたす原因としてチーズには塩分を多く含んでいるのもマイナス要因になる可能性があります。その他にも何か理由があるのでしょうか。
② ①とは逆に久山町研究では乳類や乳製品を多く含んだ食事を摂取しているグループのほうが認知症の発症が少なかったという結果でした。これについて日本人はこれらを大量に食べないから動脈硬化,肥満が起こりにくいと考えてよいでしょうか。さらに日本人の場合,これらを摂取している群では低栄養→身体機能低下→認知症と進んでいきにくいと考えるべきでしょうか。
③オリーブオイルを与えたマウスはアミロイド斑を分解して減らすということが言われていますが,エビデンスはあるのでしょうか。
以上,国立循環器病研究センター・猪原匡史先生にご教示いただけますようお願いします。
(静岡県 M)


【回答】

【認知症予防のカギは「抗酸化」と「抗糖化」。「糖化」に関わるチーズを避け、「酸化」を防ぐオリーブオイルを摂取すべきなのはそのため】

MIND(Mediterranean-DASH Intervention for Neurodegenerative Delay)食は地中海食と高血圧食であるDASH(Dietary Approaches to Stop Hypertension)食のハイブリッド食です1)(表1)。「ラッシュ記憶・老化プロジェクト」に参加した,認知症でない高齢者923人(年齢58〜98歳)を対象に,食事アンケートで,MIND食に従った程度について調査し,認知症発症との関連を調べました。

ご質問にお答えする前に,まずお伝えしたいのは,「食」研究には様々な限界があるということです。食事内容の評価法や評価のタイミングの問題,食事以外の因子(平素の運動量や併存疾患)の交絡,そして対象者の栄養状態が複雑に研究結果に影響します2)。よって,対象者の違いによっては相反する結果もしばしばみられることになります。それを念頭に置きながら,私たちは「食」研究の結果を解釈することになります。

もう1つ重要な要素は,地域差,文化による違いです。MIND食を提唱したMorris博士3)が某テレビ局の取材時におっしゃっていたことが大変印象的ですので紹介します。「それぞれの文化や食生活はその土地に結びついています。アフリカの砂漠の住民にベリー類を食べるように言ったところで,彼らはどうするのですか?ですから,科学の進むべき道は,それぞれの現地の文化を検証して,その文化にあるどんな食品や栄養素が健康な脳をもたらすのかを調べることだと思います」。

①発酵食品で,体にいいイメージがあるチーズですが,ご指摘の通り,チーズは,飽和脂肪酸の多い牛乳から作られていることや塩分を多く含んでいることから動脈硬化と関係します。また,チーズには血管や神経の老化との関連性が指摘されるAGE(終末糖化産物)が比較的多く含まれています。熟成の過程でAGEが作られますので,熟成させないモッツァレラチーズなどでは含有量が少ないのですが,長期間熟成させるパルメザンチーズやチェダーチーズにはAGEが多く含まれます。よって,MIND食では,チーズは週1回までの摂取が推奨されています。しかし,そもそも日本でのチーズ消費量はフランスの1/10以下と言われていますので,ほとんどの方がチーズを制限する必要はないのかもしれません。

②上述したMorris博士の指摘通り,その土地や文化により推奨される食事が異なってくると思われます。よって,欧米と日本で逆の結果が出る可能性も十分にありえます。たとえば,地中海食では,全脂肪乳製品を週に10回以下の摂取に抑えなさい,という推奨がなされています。これは,地中海周辺の住民が普段から全脂肪乳製品の摂取が多い(多すぎる)ことを反映した推奨ということになります。したがって,欧米と日本との間で,さらに同じ日本の中でも,普段の食生活の違いにより推奨される食事は異なってくると思われます。

③オリーブオイルは酸化しにくい不飽和脂肪酸のオレイン酸やポリフェノールなど抗酸化作用を持つ成分を多く含むことから,MIND食でも推奨されています。動物実験では,アミロイドβやリン酸化タウ蛋白質といった脳の老廃物を減少させる効果がアルツハイマー病のモデル動物を用いた実験で証明されています4)

アルツハイマー病のような20年にも及ぶ潜伏期間を経て発症する年齢依存性の疾病に対して,どうやら医学は無力であるようです。アルツハイマー病の修正可能因子を調査した323論文のメタ解析で,最も効果量の大きかったのは,“healthy dietary pattern”すなわち健康的な食習慣で,50%以上のリスク軽減効果が報告されました5)。実は身近に認知症の予防法が存在していたのかもしれません。

【文献】

1) 国立研究開発法人 国立循環器病研究センター:認知症リスク減! 続々 国循のかるしおレシピ (かるしおシリーズ). セブン&アイ出版, 2017.

2) 猪原匡史:最新精神医. 2020;25(4):261–9.

3) Morris MC, et al:Alzheimer’s Dement [online serial]. 2015;11(9):1007–14.
[http://dx.doi.org/10.1016/j.jalz.2014.11.009]

4) Qosa H, et al:J Nutr Biochem. 2015;26(12): 1479–90.

5) Xu W, et al:J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2015;86(12):1299–306.

【回答者】

猪原匡史 国立循環器病研究センター脳神経内科部長

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