メタ解析によるとロボット支援膀胱全摘除術(robot-assisted radical cystectomy:RARC)は開放膀胱全摘除術と比較して出血量と輸血率の減少が利点であるのに対し,腫瘍学的アウトカムと周術期合併症リスクの同等性が報告されていますが,初期の前向きランダム化比較試験ではロボット支援手術で局所および腹腔内再発のリスク増加を示す報告もありました。わが国では2018年にRARCが保険収載され,新規導入施設が増加傾向にあります。新規導入に際し,制癌性を損なうことなく安全に導入するための留意点を教えて下さい。
岐阜大学・古家琢也先生にご回答をお願いします。
【質問者】
古賀文隆 がん・感染症センター都立駒込病院 腎泌尿器外科部長
【本手術導入初期は,その適応を慎重に吟味し開始すべきである】
RARCは,同じ骨盤内臓器の前立腺手術と変わらない手術といった印象を持たれがちですが,まったく異なるものです。膀胱に発生する尿路上皮癌は他の癌腫に比べ,非常に悪性度が高いため,不用意な把持や展開により,開放手術では考えられなかったような再発・転移をきたすこともあります。そのため,ロボット操作のみならず,助手との協調性も含めた,術前のシミュレーションはかなり重要であると考えています。
ロボット操作に関しては,膀胱は予想以上に大きい臓器なため,ロボットのみでの展開はかなり難しくなっています。特にグラスパーなどの把持鉗子による把持のみの膀胱の展開は,ほぼ不可能と認識すべきです。そのため,鉗子のシャフトを利用し,膀胱を圧排する,あるいは膀胱を乗せて外側に展開するといった方法もかなり有用であり,把持だけに頼らない操作を習得する必要があります。不用意な膀胱の把持が腫瘍細胞を挫滅させ,それが血中およびリンパ管に播種をきたす恐れがあることや,不用意な切開が実は腫瘍に切り込んでおり,その結果,気腹による腹膜播種を引き起こすといった可能性を念頭に置いておく必要があります。これは決して大げさな表現ではなく,それほど尿路上皮癌は手ごわい癌のひとつであることを,再認識頂ければと考えています。
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