HFrEFに続きHFpEFでも転帰を改善し注目を集めるSGLT2阻害薬だが、急性心不全(AHF)例でも有望なようだ。15日までオンライン開催されていた米国心臓協会(AHA)学術集会にてAdriaan A. Voors氏(フローニンゲン大学、オランダ)が報告したランダム化試験“EMPULSE”では、プラセボに比べ有意な「死亡・心不全(HF)増悪抑制、症状改善」が報告された。
EMPULSE試験の対象は、NT-proBNP/BNP高値を呈するAHF(含:慢性心不全[CHF]急性増悪)入院例である。入院から24時間以上が経過の、状態の安定していた530例が登録された。収縮期血圧「<100mmHg」あるいは低血圧を呈した例は除外されている。
平均年齢は70歳、3割強が女性だった。また70%弱がCHFの急性増悪例だった。左室駆出率(EF)「<40%」が65%強を占め、KCCQ-TSS中央値は40弱だった。
これら530例は入院後5日以内に、SGLT2阻害薬エンパグリフロジン10mg/日群とプラセボ群にランダム化され、90日間、二重盲検法で観察された。
EMPULSE試験の1次評価項目は「死亡・HF増悪・KCCQ-TSS」である。HF増悪の内訳は、「全HF入院、HFに起因する救急受診」。
そしてこれら評価項目の比較には“win ratio”(WR)という指標が用いられた。評価項目ごとに2群間で勝敗を決め、評価項目の「勝」/「敗」比で優劣を比較するというものである。この値が高いほど、臨床的ベネフィットを甘受できる可能性が高い。
具体的には、まず「死亡」で「死亡vs.生存」、「早期死亡vs.その後の死亡」(前者が「敗」)により各群の勝率を求め、次にHF増悪(「あるvs.なし」、「早期vs.その後」、いずれも前者が「敗」)、最後にKCCQ-TSS(5ポイント超の改善で「勝」)で同様に勝率を算出しそれらを合算、WRを求めた。
その結果、SGLT2阻害薬群(勝率:53.8%)における対プラセボ群(39.7%)WRは1.36(95%信頼区間[CI]:1.09-1.68)の有意高値となった(6.4%は「引き分け」)。ただしSGLT2阻害薬群における勝率優位の多くは、「KCCQ-TSS改善」で得られたものだった。
サブグループを見ると、SGLT2阻害薬によるWR改善は、「新規心房細動(AF)vs. CHF急性増悪」、「糖尿病例vs.非糖尿病例」に影響を受けず、「NT-proBNP、推算糸球体濾過率、EF、AF合併の有無」にも影響を受けていなかった。
なお通常の方法で「心血管系(CV)死亡・初回HF増悪」リスクを比較すると、SGLT2阻害薬群におけるハザード比(HR)は0.69(95%CI:0.45-1.08)で有意差とならなかった。発生率をプロットしたカプランマイヤー(KM)曲線は、当初SGLT2阻害薬群が上を行くも、20日目でクロスしプラセボ群が高値。30日目からは両群ほぼ同一曲線となり、50日目前後を境にプラセボ群で著増して乖離が開くという推移をとった。
また「CV死亡」を「全死亡」に変え「全死亡・初回HF増悪」で比較すると、SGLT2阻害薬群におけるHRは0.65(0.43-0.99)と有意低値となったが、こちらでもやはり、開始20日目のKM曲線クロスと、50日目以降の著明乖離が認められた。
安全性だが、重篤有害事象の発現率はSGLT2阻害薬群:15.0%、プラセボ群:20.5%、服用中止を要する有害事象はそれぞれ8.5%と12.9%だった。また急性腎不全はSGLT2阻害薬群:7.7%、プラセボ群:12.1%、低血圧もそれぞれ10.4%と10.2%だった(いずれも検定非提示)。
本試験は、Boehringer IngelheimとEli Lilly and Companyの資金提供を受けて実施された。またNature Medicine誌にアクセプトされたという。