胸部放射線治療による有害事象として,肺の間質に線維化を主体とする炎症が生じる病態である。
一般的に放射線治療終了から1~3カ月後に多く,ピークは2カ月後。放射線治療中に生じることは少ない。稀に,放射線照射から数年後の化学療法によって,放射線照射部位に皮膚を中心とした炎症が惹起される「放射線照射リコール現象」が肺にも生じることがある。
咳,息切れや発熱が一般的だが,無症状で経過し定期的な画像検査の際に異常陰影を指摘される場合も多い。典型的には胸部聴診時に乾性ラ音が聴取される。
胸部X線写真や胸部CT検査において,肺のすりガラス影や浸潤影を主体とする陰影がみられる。血液検査では,LDH,KL-6,SP-DおよびCRPの上昇を認めることが多い。SpO2は低下傾向となる。
まず,放射線治療を治療量で行った場合,放射線肺炎が生じないほうが稀であり,大部分の症例では多かれ少なかれ放射線肺炎を生じるということを念頭に置く必要がある。多くは無治療で自然軽快するが,一方で予後不良の呼吸不全に至る場合もあり,重症度を正確に評価し,それに応じた治療を選択することが重要である。実臨床において,放射線肺炎の重症度は症状と画像所見を組み合わせて評価する場合が多い。症状の程度では,労作時呼吸困難や発熱などの症状により日常生活が制限されているかどうか,実際に低酸素をきたしているかどうかが治療開始の判断基準となる。画像所見では,陰影が放射線の照射野外に広がっているかどうかという点が重要となる。特に,胸郭に対して斜めに照射する追加照射(ブースト)により,多くは対側肺にも照射野が達することに注意しなければならず,放射線照射記録を確認する必要がある。
治療薬の中心はステロイドであり,一般的にはプレドニゾロン換算0.5~1.0mg/kg/日から投与を開始し,治療反応性を考慮しながら12週程度かけて漸減・中止をめざす。投与量や漸減法に定まったものはないが,短期間での急激な減量は再燃する場合があるため注意する1)。特に,初期の減量時や15mg/日程度まで減量した時期に再燃しやすいので注意する。
鑑別すべき疾患としては,細菌やウイルス,真菌による感染症,薬剤性肺炎,心不全による心原性肺水腫,悪性腫瘍の進行によるがん性リンパ管症などが挙げられる。上記の照射野に一致している場合は比較的鑑別は容易であるが,照射野外に広がる場合は喀痰培養や腫瘍マーカー,BNP,β-Dグルカンなどの検査も鑑別の一助となる。現在の肺癌診療では,化学放射線療法の後の標準療法として免疫チェックポイント阻害薬が投与されるため,その後に生じた肺の炎症が免疫関連有害事象による炎症なのか,あるいは放射線肺炎を増強しているのか,判断に難渋することがある。これについても,肺炎の起こりはじめや放射線照射野と照射野外の部位との程度の差が鍵となる。
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