株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

「Standards of Medical Care in Diabetes─2022」におけるメトホルミンの位置づけの変化を読み解く

No.5107 (2022年03月12日発行) P.29

篠田純治 (トヨタ記念病院内分泌・糖尿病内科科部長)

登録日: 2022-03-12

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

Point

米国糖尿病学会(ADA)は「Standards of Medical Care in Diabetes」を毎年発表しており,2021年版と2022年版では,メトホルミンに関する表記が改訂されている。

メトホルミンは従来,成人2型糖尿病薬物治療の第一選択薬とされていた。しかし,動脈硬化性心血管疾患合併あるいは高リスク状態,心不全,慢性腎臓病があれば,HbA1cやメトホルミン使用の有無にかかわらず,GLP-1受容体作動薬あるいはSGLT2阻害薬がより強く推奨されている。

“メトホルミンが第一選択薬から脱落した”などという表現は適切ではなく,メトホルミンの重要性は同じであるが,GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬の位置づけが上がってきたということを示していると考える。

1. 「Standards of Medical Care in Diabetes─2022」

米国糖尿病学会(American Diabetes Association:ADA)は「Standards of Medical Care in Diabetes」を毎年発表している。これは,最新の臨床活動への推奨やガイドラインと位置づけられている。その中で,成人2型糖尿病の薬物療法について具体的な推奨が表記され,また図も示されている。

日本では,糖尿病薬物療法の選択は,それぞれの薬物作用の特性や副作用を考慮に入れながら各患者の病態に応じて行うこととされている。日本糖尿病学会からは具体的な薬物選択の推奨やそれを表した図は示されていないが,これは日本人では成人2型糖尿病でも一人ひとり病態が異なり,肥満度や内因性インスリン分泌能や生活などを考慮したきめ細かい判断が必要であるからと考えられる。しかしながら,実際の臨床現場ではADAの「Standards of Medical Care in Diabetes」の図が参考にされていることは多いと思われる。

ADAから2022年版の「Standards of Medical Care in Diabetes」が発表された。その第9章に薬物治療について記載されている(図1)1)が,2021年版(図2)2)とは表記が少し改訂されている。

2. メトホルミンに関連する表記変更と位置づけの考察

メトホルミンは,安価であり,血糖降下作用以上に好ましい効果の報告(非アルコール性脂肪肝炎,がん,抗加齢,認知症など)もあり,さらに多彩な作用機序の報告が相次いでおり,糖尿病治療薬の中心的存在である3)。「Standards of Medical Care in Diabetes」においても,2021年版までメトホルミンは成人2型糖尿病薬物治療の第一選択薬とされていた(図2)。2022年版(図1)でどのように改訂されたかを比較することにより,考え方の変化が見て取れる。

今回の第一選択は,合併症や患者の様々な要因を考慮するとして,メトホルミンと包括的な生活改善が含まれるとされている。従来,メトホルミンと包括的な生活改善が第一に考えられていた。しかし,糖尿病の治療目標が患者ごとに多面的に考えられ多様化しており,合併症に対する他の薬剤のエビデンスも積み重ねられてきた。そのため,メトホルミン以外の治療も先に選択しうるようになってきたということを表している。多くの場合は,血糖降下効果だけでなく,安全で安価で,心血管リスクや死亡リスクを減少させる可能性のあるメトホルミンと,包括的な生活改善でよい。ただし,心血管疾患や腎臓疾患が合併した場合は,追加/代替の薬剤が考慮されると記載されている1)

図1と図2をよく見比べてみると,図1では「FIRST-LINE THERAPY」のboxから下に行く矢印がなくなっており,さらに図の流れ全体が枠に囲まれて「PHARMACOLOGIC TREATMENT(薬物治療)」とされている。心血管イベントに関する重要なエビデンスの蓄積や,他の学会などのガイドラインとの整合性などを考慮すると,合併症など多様な個々の患者を中心とした治療目標がある糖尿病の薬物治療を,1つの流れのアルゴリズムでは表現できない,ということである1)

図1の「FIRST-LINE THERAPY」のboxの下に次に来るものは,動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)合併あるいは高リスク状態,心不全(HF),慢性腎臓病(CKD)の有無となる。これらがあれば,GLP-1受容体作動薬あるいはSGLT2阻害薬が,HbA1cやメトホルミン使用の有無にかかわらず推奨されている。2021年版にもこの記載はあるが,2021年版では「CONSIDER(検討)」であるのに対し,2022年版では「RECOMMEND(推奨)」と表現が強くなっている。これは,エビデンスの蓄積や,糖尿病の有無にかかわらずHFやCKDに適応が広がってきている薬剤の位置づけが向上してきていることを示している。

3. まとめ

メトホルミンが成人2型糖尿病治療薬の中心的な存在であることに変わりはないと思われる。しかし,エビデンスの蓄積により,ASCVDあるいはその高リスク,HF,CKDの合併に関しては,GLP-1受容体作動薬あるいはSGLT2阻害薬の重要性が増してきたことが反映されて,2022年版での表記が変化していると考えられる。

この状況を,“メトホルミンが第一選択薬から脱落した”などと表現することは適切ではないと思われる。糖尿病の治療目標に対する考え方が時代とともに変化して包括的に進化し,また薬物療法の進歩もあり,糖尿病患者の合併症や環境など,患者中心に考える糖尿病の治療目標に合わせた薬物選択が考慮されるようになってきた。そのため,メトホルミンの重要性に変わりはないが,GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬の位置づけが上がってきたということを示していると言えるであろう。

【文献】

1) American Diabetes Association :Diabetes Care. 2022;45(Suppl 1):S125-43.

2)American Diabetes Association:Diabetes Care. 2021;44(Suppl 1):S111-24.

3)篠田純治:医事新報. 2021;5074:18-32.


関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

関連物件情報

もっと見る

page top