食道アカラシアは,食道体部の蠕動障害と下部食道括約部(lower esophageal sphincter:LES)の弛緩不全を呈する原因不明の疾患であり,慢性的な嚥下障害がみられる。
主な症状は嚥下障害(食物のつかえ感)であり,進行すると口腔内への食物逆流や体重減少がみられる。誤嚥により肺炎をきたす場合もあり,高齢者では致命的となることもある。また胸痛がみられることも多く,時に心疾患との鑑別が必要となる。
症状より食道アカラシアが疑われる際には,まず上部消化管内視鏡が行われることが多い。食道内の食物残渣や泡沫状残渣,胃食道接合部の強収縮を示すロゼッタ徴候などの特徴的な所見がみられる場合は食道アカラシアがより疑われるが,必ずしも典型的な所見が得られないこともある。嚥下障害がみられる場合は,食道X線造影検査を併用することも重要である。造影検査では食道拡張,変形,バリウムの排出遅延などがみられ,これらの特徴的な所見が得られた場合には,確定診断のために食道内圧検査を行う必要がある。
治療法には主に薬物療法(硝酸薬,Ca拮抗薬,漢方薬),バルーン拡張術,外科手術(一般的には腹腔鏡下Heller-Dor手術),経口内視鏡的筋層切開術(peroral endoscopic myotomy:POEM)がある。
内服治療はあまり効果的ではなく,軽症例には試みてもよいが,効果が得られない場合は早々に専門医へのコンサルトが必要である。バルーン拡張術は効果にばらつきがあり,また単回では長期的な効果に乏しいことから,若年者(40歳以下)には積極的には勧められない。外科手術とPOEMについては,短期成績に関してはほぼ同等(奏効率90%以上)とされる。しかし,食道内圧検査による病型分類(シカゴ分類type I,Ⅱ,Ⅲ)別では,type I,Ⅱにおいては両者の治療効果はほぼ同等だが,食道体部に強い収縮を伴うtype Ⅲでは外科手術の効果は劣るとされ,POEMが積極的に考慮される。
当院では,食道アカラシアの症状によって生活の質が低下し,全身麻酔が可能な患者に対しては,低侵襲性・治療効果の持続性からPOEMを第一選択として行っている。
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