頸管無力症とは,「外出血や子宮収縮などの切迫流早産徴候を自覚しないにもかかわらず子宮口が開大し,胎胞が形成されてくる状態をいう。妊娠16週頃以後にみられる習慣流早産の原因のひとつである」とされている1)。その病因は不明であるが,既往妊娠時に発症した頸管裂傷などの外傷や子宮頸部円錐切除術,先天的な頸部組織の異常などに起因すると考えられる。
明確な診断基準はなく,早産に至る頸管短縮を予測する方法も確立されていない。診断や治療方針は各施設にゆだねられているが,大きく2つに分類される。①感染を伴わない妊娠12週以降流産もしくは早産歴のある既往歴から疑う症例と,②妊娠経過中に子宮収縮を伴わない頸管長短縮や子宮口開大を認めた症例である。
①については,詳細な問診と流早産時の情報収集が重要である。当時の感染徴候の有無など(場合によっては胎盤病理検査所見)を参考にしながら,総合的に評価する必要がある。②については,妊娠中期の経腟超音波検査による頸管長測定が重要である。短縮を認めた場合には,頸管無力症である可能性を念頭に慎重な妊娠管理を行う。なお,頸管長測定の際には膀胱を充満した状態では行わないこと,プレッシャーテストを併用するなどして行うことが重要である。
「産婦人科診療ガイドライン―産科編2020」のCQ301に「頸管無力症への対応は?」という項目がある2)。治療としては経腟的頸管縫縮術が中心となり,予防的頸管縫縮術と治療的頸管縫縮術の2種類に大別される。
前述①の「感染を伴わない妊娠12週以降流産もしくは早産歴のある患者」に予防的に縫縮術を行う際には,妊娠12週以降のなるべく早期に施行する。手術前には細菌性腟症の有無を検査し,細菌性腟症を認めた際には抗菌薬投与を行う。治療的頸管縫縮術は,前述②の「子宮収縮を伴わない頸管長短縮例もしくは子宮口開大による胎胞形成症例」に対して,緊急的に施行される術式である。感染を伴う際には頸管縫縮が有効ではない可能性があるため,発熱,血液検査(白血球数,CRPなど),子宮頸管粘液中顆粒球エラスターゼなどにより炎症の有無を確認する。緊急で施行される治療的頸管縫縮術の治療効果については,感染の有無や妊娠週数にも左右されることから一概に比較検討することは困難であるが,妊娠期間を延長し周産期予後を改善するとされている3)。一方で,頸管縫縮を行う時期が妊娠何週までであれば妊娠期間を延長できるというエビデンスはなく,NICUなどの受け入れ体制なども考慮して検討する必要がある。
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