2017年に改訂されたわが国の心不全(HF)ガイドライン(「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」)は、発症前の「HFリスクのみ」しか認めない段階も、「ステージA、B」の「HF」と位置づけ、HFとしての治療(「リスク因子のコントロール」、「HFの発症予防」)を推奨している。ここでリスク因子として挙げられているのは、高血圧や糖尿病(DM)、動脈硬化性疾患などだが、7月27日にGut誌ウェブサイトで先行公開されたメタ解析では、近年話題となっている「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」も、HF発症のリスク因子である可能性が再確認された[Gut. 2022;gutjnl-2022-327672.]。
解析対象となったのは、コホート観察研究11報(1124万2231名)である。いずれも、NAFLD、非NAFLDを含む非HFを対象としたコホートである。なお2型DM、冠動脈疾患患者のみを対象としたコホートは除外されている。
対象の平均年齢は55歳、50%が女性で、BMI平均値は26.4 kg/m2だった。観察期間中央値10.0年間に0.9%(9万7716例)がHFを発症。観察開始時にNAFLDを認めたのは26.2%だった。
これらを解析したところ、観察開始時にNAFLDを認めると、その後のHF発症ハザード比(HR)は1.50(95%信頼区間[CI]:1.34-1.67)の有意高値となっていた。このリスク上昇は、年齢や性別、人種、DM合併の有無、肥満度、さらに高血圧など古典的心臓血管系リスク因子の有無とは、独立して認められた。
ただし、試験間のバラツキ指標である「 I2」は94.8%ときわめて大きい。原著者はこの結果について、試験間の「対象」、「NAFLD診断手法」、「NAFLD重症度」の違いなどが反映された可能性を指摘している。
確かに、「NAFLD重症度」と「HF発症リスク」間には、本解析でも正相関が認められた。ただし、この点を検討した試験は2報のみだった。
余談だが、本解析にも含まれている、87万名を対象とした米国の振り返り解析[J Am Heart Assoc. 2021;10:e021654.]では、 NAFLDに伴うHF発症リスクの上昇は、左室収縮能の低下したHFrEF(HR:1.09、95%CI:0.98-1.20)よりも、収縮能が維持されたHFpEF(同:1.24、1.14-1.34)のほうが高い傾向を認めている。