1 ステロイド使用時の「7つの習慣」
ステロイドを使用する際には「哲学」とそれを支える「習慣」が必要である。
下記の「7つの習慣」について,なるべく実践に即して解説していく。
習慣1. 診断をつけてから(あるいは絞ってから)使う
習慣2. 重症臓器病変には十分な量を投与し,その後速やかに減量に入る
習慣3. 自然免疫系と獲得免疫系の異常の割合を考える
習慣4. 免疫抑制薬(steroid sparing agent)を併用する
習慣5. 投与開始時に減量のスケジュールを決めておく
習慣6. 投与開始からの時期を考慮して副作用対策をする
習慣7. 患者に副作用を避ける/対処するための説明をする
2 ステロイド使用の実際
実際の疾患で,筆者がどのようにステロイド(やその他の免疫抑制薬)を使用しているかを紹介する。
例1. 「獲得免疫系」が強く働く疾患:ループス腎炎
・寛解導入のステロイドはしっかり使い,免疫抑制薬でリンパ球を集中して抑え,10mg/日以下までは速やかにステロイドを減量,以後の寛解維持期には慎重に減量。
例2. 「自然免疫系」が強く働く疾患:痛風
・ステロイドの少〜中用量の短期使用や関節内注射で「ささっと」落ち着け,寛解後は投薬なしか,再発性であればコルヒチンで維持。
例3. 「自然免疫系」と「獲得免疫系」が同じくらい働く疾患:関節リウマチ
・DMARDsが奏効するまでの期間のブリッジとしてステロイドは使用可能だが,数カ月以内に中止をめざす。隔日ステロイドが有用,関節内注射も有用。
3 ステロイドの「未来」
国際的な傾向として,ステロイドの使用はどんどん「短期間」「少量」の方向に動いている。
最近登場したいくつかの代表的な臨床試験のデザインを紹介する。
例1. 巨細胞性動脈炎に対してトシリズマブを使用してステロイドを26週で終了したGiACTA
例2. ANCA関連血管炎に対してアバコパンを使用して,ステロイドを使用せず寛解導入を図ったADOVOCATE試験
例3. ループス腎炎に対してボクロスポリンを使用して,ステロイド中用量で寛解導入し,16週まででほぼ中止したAURORA1試験
それでもステロイドは,「(効果が)強い,安い,(発現が)早い」の3拍子揃っためずらしい薬であり,「ステロイドを使わなくてすむ場合にはなるべく使わない」という大前提の上で,①DMARDsを開始してからその効果が発現するまでのbridging therapyとして,②(金銭的理由や副作用などで)他薬の選択肢が少ない場合にやむをえずの代替手段として,最小量のステロイドを使うことは許容されるだろう。全身投与の副作用を軽減するために,局所治療としての関節内注射や,重症臓器病変がない場合の隔日投与を積極的に活用したい。
伝えたいこと
・ステロイドは「諸刃の剣」と言われるように,患者を救う「聖剣」であると同時に地獄に突き落とす「魔剣」でもある。
・その剣を操る剣士の哲学は“maximize good, minimize bad”(できるだけ良い面を引き出し,できるだけ悪い面を出さないこと)である。
・ステロイド使用の「7つの習慣」を実践し,治療が難しい患者を上手に「着地」させたときには,努力が報われた達成感が得られるだろう。