右脚ブロックは,いわゆる健常者においても健康診断で発見されることもある一方,基礎心疾患に伴って合併してくることもある。右脚ブロック単独による症状は通常ないが,第2度あるいは第3度房室ブロックなどの徐脈性不整脈や不整脈原性右室心筋症などによる心室頻拍などの頻脈性不整脈を合併する場合がある。また,Brugada型心電図との鑑別においても重要である。
右脚ブロックは,心電図診断に基づく診断名であり,心臓刺激伝導系の右脚の伝導途絶によって発生する。何ら基礎心疾患のない,いわゆる健常者にみられる例も少なくないが,進行性心臓伝導障害(Lenegre病)の家系に右脚ブロックのみを示す例や,何らかの基礎心疾患(不整脈原性右室心筋症など)に伴って発生してくる例もある1)。また,不完全右脚ブロックは右室容量負荷(心房中隔欠損症など)の表現として出現する場合もある。したがって,心電図で右脚ブロックが診断されてもまったくの無症状で病的意義に乏しい例から,心疾患に伴う異常所見のひとつとして出現する例もあるため,その背景を確認しておく必要がある。心電図学的には,saddle-back型Brugada心電図と不完全右脚ブロックとの鑑別診断が必要となることもある2)。
いわゆる健常者にみられる右脚ブロック所見の長期予後については,心筋梗塞・慢性心不全・左脚ブロックのない1万8441人を登録(登録期間1976~2003年)し,2009年まで経過を観察したコホート研究の結果が報告されている3)。この前向き研究によると,完全右脚ブロックの新規出現は,男性,高齢者,収縮期血圧高値,不完全右脚ブロック例に多く認められた。不完全右脚ブロックの新規出現は,男性,高齢者,BMI低値例に多く認められた。完全右脚ブロックの存在は,男女ともに全死亡(ハザード比1.31)と心血管死(ハザード比1.87)に関連し,また心筋梗塞の発症やペースメーカ植込みリスクを増大させていたものの,心不全・心房細動・慢性閉塞性肺疾患などとの関連は認めなかったと報告されている。他方,不完全右脚ブロック所見は,これらすべてについてリスク要因とはならないことも示されている。完全右脚ブロックと不完全右脚ブロックの長期予後が異なることを明らかにした点で注目される。
右脚ブロックの診断は12誘導心電図で行うが,QRS幅0.12秒以上の完全右脚ブロックとQRS幅0.12秒未満の不完全右脚ブロックにわけられる。正常例では,心室中隔は左脚および右脚の両者からの刺激により興奮するが,右脚ブロックの際には左脚からの刺激のみに興奮し,中隔興奮は左室側から右室側に向かう。右室側誘導(V1)はこの興奮によるベクトルを迎える側にあるため初期r波を描き,左室側誘導(V5,V6)はこれを見送る側にあるためq波を描く。次に左室が興奮するとV1誘導は左室興奮によるベクトルを見送る側にあるためr波についでS波を描き,V6誘導はこれを迎える側にあるためq波に続いてR波を描く。そして右脚ブロックのために遅延した右室興奮が起こる。V1誘導はこの興奮によるベクトルを迎える側にあるためR’波を描き,全体としてrsR’型となる。V6誘導はこれを見送る側にあるためS波を描きqRs型となる。
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