特発性膜性腎症は,高齢者を中心に蛋白尿と時に顕微鏡的血尿を伴う疾病であり,一次性ネフローゼ症候群の約40%を占める。原因は糸球体係蹄上皮下の免疫複合体形成と補体活性化であり,主に糸球体係蹄上皮細胞上の自己抗原が関与する。
特発性膜性腎症と診断するには,臨床病理学的に二次性を鑑別する必要がある。特に,ブシラミン等による薬剤性,若年女性で膠原病(ループス腎炎Ⅴ型),高齢者で悪性新生物の有無を確認する。腎生検により組織診断を行い,免疫複合体を形成しているIgGサブクラスがIgG4の場合は特発性である可能性が高く,IgG1~3の場合は二次性を疑う。近年注目されているM型ホスホリパーゼA2受容体(phospholipase A2 receptor:PLA2R)等の自己抗原に対する血中抗体価も診断の参考になるが,日本人ではその検出率が低い。
治療の要点として,ネフローゼ状態か否かが重要である。非ネフローゼ状態では,保存的治療(食事療法と対症療法)を選択する1)。
一方,ネフローゼ状態であれば,腎障害を惹起するリスク因子を評価して,療法を選択する。まず,尿蛋白減少を目的とするレニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬とスタチンなど脂質異常症治療薬などによる保存的治療を開始する。ただし,75歳以上の高齢者では代謝・排泄が低下しており,RAS阻害薬や利尿薬,ビタミンD製剤などの用量調節に注意している。しかし,ネフローゼ症候群の遷延化が予測される場合は,ステロイド単独治療あるいはステロイド抵抗性に認められているシクロスポリン,シクロホスファミドあるいはミゾリビン等の核酸合成抑制薬を治療当初より併用した免疫抑制療法を行う。
なお,治療選択の上では,「KDIGOガイドライン2021」2)における高リスク〔GFR<60mL/分/1.73m2および6カ月以上持続する尿蛋白>8g/日,もしくは正常腎機能であっても6カ月間のRAS阻害薬治療によってもネフローゼレベルの蛋白尿が50%以上の減少を示さず,かつ筆者らの施設で日常評価する項目(血清アルブミン値2.5g/dL未満,尿中β2ミクログロブリン>0.5mg/日,selectivity index>0.20)のうち1項目以上を伴う場合〕および中等度リスク(高リスクに相当しないネフローゼ状態)を参照している。
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