本年6月の米国糖尿病学会(ADA)でたたき台が示された[日本医事新報. 5126:66-9.]、欧州糖尿病学会(EASD)とADA共同作成による、血糖管理のコンセンサスレポート最終版が、19日よりストックホルム(スウェーデン)で開催されたEASD学術集会で公表された[Davies MJ, et al. 2022.]。たたき台に対しては、450を超えるコメントが寄せられたという。
レポート全文、並びに報告スライドはEASDのホームページで公開されているため、ここでは主な変更点に絞り、紹介したい。
第一に「Therapeutic inertia」(漫然治療:治療目標が達成されていないにもかかわらず、治療の変更・強化がなされない)への警告が強調された。HbA1c目標値が達成されない場合、ただちに推奨アルゴリズムに沿った治療強化が求められる。
また、治療アルゴリズムにも若干の変更があった。 まず、欧米の2型糖尿病(DM)実態を反映し、「減量」が「血糖降下」と独立した治療目的となった。その結果、2型DM治療では、高リスク例に対する「心腎保護」、ならびに全例における「HbA1c目標値達成」と「減量」を「同時」にめざすとされた。ADA報告時はこれら目標の「順次達成」が許されるようにも理解できたが、明確化された。
一方、薬剤選択にあたっては「低血糖回避」も改めて強調された。
治療に関しては、身体活動、それも「24時間にわたる身体活動」の改善が新たに推奨されるに至った。24時間の身体活動を「Sitting」(30分に1回は起立)、「Sweating」(「150分/週」以上の中等度強度身体活動、不活動日連続は2日まで、など)、「Stepping」(1日歩数の500歩増加、5~6分の早足歩き)、「Strengthening」(筋トレ、太極拳、ヨガ)、「Sleep」という5つの標語にまとめ、それぞれについての推奨を打ち出した。
中でも睡眠は「時間」(6~8時間)、「質」(途中覚醒を防ぐ)、「概日リズム」(夜型よりも朝方)という3つの観点からの評価・改善が推奨されている。
さらに「患者中心」治療の重要性強調も顕著となり、治療における「意思決定の共有」(SDM)と「糖尿病自己管理教育と支援」(DSMES)の重要性が改めて強調された。同時に、患者の置かれた社会経済的立場への配慮も、特に管理目標値不達成例では、必要とされた。
患者に対する「言葉遣い」についても言及があった。 まず、医療従事者に言葉の重要性を認識するよう促し、患者に対する言葉はすべて、「中立的」で「スティグマを感じさせず」、「事実に基づき」、「うまくいっている点に焦点を当て」、「尊敬の念を忘れない」べきだとした。さらに、「糖尿病患者」「不従順」などの言葉を使わないなどの注意も加えられた。
本コンセンサスレポートの作成に携わった14名は、可能な限り地理的な多様性が反映されるよう選ばれ、検討は2021年9月から主としてリモートで実施された。「推奨」として採用されるために必要な「賛成」割合は、全体の60%以上だった。