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誤嚥性肺炎[私の治療]

No.5137 (2022年10月08日発行) P.42

青木洋介 (佐賀大学医学部国際医療学講座臨床感染症学分野教授)

登録日: 2022-10-11

最終更新日: 2022-10-04

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  • 全身的および肺局所の感染防御能の低下がない個人が誤嚥により肺炎をきたしても,偏性嫌気性菌(obligate anaerobe:OA)が関与する可能性は以前から思われているほど高くない(膿胸を除く)1)。また,誤嚥性肺炎(aspiration pneumonia:AP)に常にOAが関与するわけではなく,むしろ稀である。好中球機能の低下(糖尿病など)がある場合,喀痰を産生できないため,生体は次善の策として膿瘍形成により菌の隔絶化を図る。膿瘍内では初期に好気性菌や通性嫌気性菌(facultative anaerobe:FA)が増殖し,酸素を消費しつくすと,肺化膿症や肺膿瘍の内部は二期的に嫌気的環境となり,OAが感染の主役となる2)

    ▶診断のポイント

    「誤嚥性肺炎」という用語を安易に用いない。高齢者市中肺炎,院内肺炎など,病態や原因菌想定につながる疾患名で診断を考えるようにする(両者はいずれも微小誤嚥による肺炎であるが,原因菌が異なる)。

    【市中の誤嚥性肺炎】

    気腔(aerial)と腸管(enteric)の常在菌叢の微小誤嚥により肺炎をきたす。前者はα-レンサ球菌(FA)に代表される気腔内常在菌が多く,後者では肺炎桿菌(クレブシエラ属)の分離頻度が高い。その他,肺炎球菌やインフルエンザ菌も関与する。

    糖尿病に代表される好中球機能低下のある患者では,冒頭に述べた機序により,市中肺炎を契機にOAが関与する肺化膿症や肺膿瘍の発症につながる。症状に乏しく,定期外来受診時に血糖コントロールの悪化を契機にこれらの感染症に気づくことが多い。また,顕性誤嚥による肺炎の病態形成には,胃酸による化学的肺炎が加担する。

    【入院患者の誤嚥性肺炎】

    気腔,腸管の細菌叢,および緑膿菌やMRSAなどの環境(environmental)に由来する菌を含む口腔咽頭分泌物の下気道への微小誤嚥による肺炎が院内肺炎である3)が,原因菌の観点からも院内肺炎と院内の誤嚥性肺炎を区別して考える必要はない3)。加齢による嚥下機能低下,長時間の臥床,麻酔,消化器内視鏡,胃管チューブの留置,胃酸分泌抑制薬の内服等が微小誤嚥の誘因となる。

    外来診療とは異なり,体温測定や採血が定期的に行われるため,肺炎に気づかれず抗菌薬投与のないまま経過観察されるというケア状況は発生しにくい。したがって,早期に抗菌薬が投与される傾向にあるため,肺炎が膿瘍化(嫌気性菌活動性の誘因)することは稀である。以上より,OAおよびこの菌群よりもさらに肺炎の原因菌となる可能性が低い腸球菌に抗菌活性を有するスルバクタム・アンピシリン,およびタゾバクタム・ピペラシリンは,院内肺炎および誤嚥性肺炎が疑われる患者に投与する第一選択薬としては推奨しない。

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