ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori:H. pylori)感染は,胃癌発症にとって最も重要な危険因子であるが,近年,H. pylori陰性胃癌の存在が議論になっている。H. pylori陰性症例には,H. pylori感染の既往がない(未感染の)真のH. pylori陰性症例のほかに,除菌治療後にH. pyloriが陰性化した症例がある。場合によってはH. pyloriに感染しているにもかかわらず,検出検査で偽陰性となっている症例,高度に萎縮が進みH. pyloriが消退した症例もH. pylori陰性症例として扱われていることがあるので,注意を要する。
H. pylori未感染胃癌は全胃癌の1%未満と稀な病変であり,内視鏡検査で褪色調の表面型病変としてとらえられ,組織学的には印環細胞癌であることが多い。一方で近年,H. pylori未感染胃癌の中に胃底腺主細胞が起源と考えられる胃底腺型胃癌も存在することが注目されている。この病変は褪色調で,粘膜下腫瘍様の内視鏡像を示すことが多く,低異型度で分化型腺癌の組織像を示す。
現在わが国では,抗H. pylori抗体検査でH. pylori感染を検出し,胃癌の高リスク群を絞り込むというABC検診が普及しはじめているが,この検診ではH. pylori未感染胃癌の患者は低リスク群(A群)に含まれることになる。近年,わが国のH. pylori感染率は減少の一途をたどっており,その結果,ABC検診を受けた者のほとんどがA群と判定されるようになると推測される。そのような時代を迎えるにあたり,A群でもH. pylori未感染胃癌が発生しうること,加えてH. pylori未感染胃癌に関する報告が徐々に増加していることに留意する必要があると考えられる。
【解説】
1)福井広一,2)三輪洋人 兵庫医科大学内科学消化管科 1)講師 2)主任教授